平成28年11月1日(月)  目次へ  前回に戻る

男は勇壮なぶただいこが似合うが、女には?(下記参照)

地下生活を続けると気候とわからなくなるが、今日は神無月の二日(もちろん陰暦)であるので間もなく立冬である。

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この秋も過ぎて行くのだなあ。

一朶疏花痩秋影、 一朶の疏花、秋影痩せ、

啼蛄弔月羅帷冷。 啼蛄月を弔いて羅帷冷えたり。

 一本だけの疎らな花、秋になってその姿はさらに痩せ、

 オケラは啼いて、月に別離を告げている。―――夜だ。うすぎぬのカーテンも冷え冷えとしてきた。

オケラが啼く、と信じていたのですなあ。

さて、この秋の夜半に当たって、

美人無語抱雲和、 美人語無く、雲和(うんわ)を抱き、

一脈相思渺絳河。 一脈の相思、絳河(こうが)渺たり。

「雲和」は「周礼」に春官府に保管すべき楽器の一つとして、

雲和之琴瑟。 雲和の琴と瑟。

が挙げられている。注に云うに、

―――「雲和」は琴の良材を出だす山の名であるが、今となってはどの山であるかわからない。

と。これに拠って、古来「雲和」は琴(こと)・瑟(おおごと)の類の弦楽器の異称となった。

「絳」は「赤色」、「絳河」は天にある河のことで、晋代の「拾遺記」によれば

絳河去日南十万里、波絳色。

絳河は日を去ること南に十万里、波絳色なり。

絳河という川は(天にあり)太陽の通る黄道から南に四〜五万キロいったところを流れている。その川波が赤い色なので絳河と呼ばれるのである。

とされていましたが、後世には銀河のことになった。

―――銀河を「赤い河」というのは変ではないか。

というひとも多かったみたいですが、銀河は天の北極よりから南に流れ出している(?)ので南を表わす色は「赤色」であるから、「銀河」を赤い河というのである(明・王逵「蠡海集」の説)そうです。

 美しいひとは無言のまま、抱えていた琴を奏でる。

 (音波は清らかな大気を突っ切って、)ひとすじに思う先の、はるかな銀河に届くだろう。

そのひとははるかなひとを恋しく思っているのですなあ。想っても会えぬひとを。

秋夜長兮腸欲断、 秋夜長く、はらわた断えんとするも、

秋恨太長秋夜短。 秋恨はなはだ長く、秋夜短し。

 (苦しい思いをする)秋の夜があまりに長いので、内臓がブチ切れてしまいそうだが、

 苦しい思いが長く長く続くので、この長い秋の夜さえ短く思えてくるのだ。

秋の夜は長いのだが短いのである。

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本朝・橋本蓉塘「秋夜曲」

橋本蓉塘(ようとう)は名を寧、字を静甫といい、弘化二年(1845)京都の生まれ。堀川・古義堂(伊藤家)で西園寺公望と同窓。詩に精励して上夢香、神田香巌らとともに「西京三才子」と称された。維新後、西園寺の恩顧を蒙って上京し、宮内省に勤務。その詩名は遠く清朝にも達したという。明治十七年(1884)卒。

 

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