明日はお休み。明日が休みだというだけで心がのどかに。ほんと、普通に休ませてやって、ちゃんと野球も観に行かせてやれば、それだけでいいのに。
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今日は心にゆとりができたので、15日の続き。
「蝸国といえば、いにしえの「蝸角之争」で有名なあの蝸国ですかな?」
と唐某、ヒゲをひねりながら答えれば、女曰く、
おほほほ。
蝸与蛙、音同而字迥別。
蝸と蛙、音同じくして字は迥(はるか)に別なり。
蝸(カタツムリ)と蛙(カエル)の二文字、音は同じですがまったく別の文字だわよ。
唐某云う、
「蝸国とは別に蛙国があったのですなあ」
女、笑いて曰く、
「読書の士はいにしえを考え現在のことを説明することがおできになります。天地の大より草木の茂り、鳥獣・昆虫の多きもすべて書物に載っていないものはない、とお考えでしょう。けれど、
一蛙国而不知、其通博安在。
一蛙国にして知らず、その通博いずくに在りや。
ちっぽけなカエルの国のことを御存知ないなんて・・・。何でも知ってるという能力はどこに行ってしまったのでしょうねえ?」
唐某は笑いものにされたのである。
むかむか・・・と来るものがあったが我慢して、気にならないようなふうを装いながら訊ねた。
「ほう、カタツムリの国では無い、と。
子之国以蛙名、則挙国之人皆蛙乎。
子の国は蛙を以て名とす、すなわち挙国の人、みな蛙か。
あなたのこの国は「カエル」という名前がついているのでしたら、国中のひとがカエルだったりするのですかな?
わはははは」
と
戯之曰。
これに戯れて曰う。
ギャグのつもりで言いました。
女、曰く、
「そうよ、
国之人皆蛙。
国のひと、みなカエルなり。
この国のひとはみんなカエルだよ」
「むむ!」
バカにされているのであろう。唐某、顏をひきつらせてヒゲをひねった。
おほほほ。
女、曰く、
吾子既入其国、亦井底蛙耳。
吾が子、既にその国に入る、また井底の蛙のみ。
「あなたは井戸に落ちて、このカエルの国にいるのよ。もはや「井蛙」、井の中のカエルそのものなのだわよ」
「むむむむう!」
唐某は、
見其激刺愈甚。
その激刺のいよいよ甚だしきを見る。
自分は激しくからかわれており、それがさらに強まったのを知った。
「むむむむむむ・・・・」
切れるのであろうか。いきり立つのであろうか。いずれにしろ感情的にいっぱいいっぱいに・・・
―――と、突然彼は
回嗔作喜、拱而立、起敬者再。
嗔(いかり)を回らして喜びと作し、拱して立ち、敬を起こすこと再せり。
憤怒の表情が一転して喜びの表情となり、直立して両手を交叉する敬礼を二回行ったのであった。
師に対するあいさつを行ったのである。そして、にこにこしながら、
小子誠坐井窺天者。
小子、まことに井に坐して天を窺う者なり。
「コドモのような取るに足らぬわたくしめは、ほんとうに井戸の底から狭い天を眺めているような者でございます。
以前からチュウゴクの外にも国があり、世界の外にも世界がある、とは聞いておりましたが、今この国に来れたのは幸いなことであります。こうなったら、この国を遊覧して見聞を広げることができれば、更なる幸せと存じます。どうぞわたくしのまなこを潤ませるようなものを見せてはいただけますまいか」
そして、
うへへへ。
と卑屈に笑った。
変な人に見える。しかし、この人は実は「知識人」らしく権威に弱い人だったのだ。そして、新しい権威が現れると新しい権威に素直に従うという、まことに「知識人」らしい人であったのだ。
おほほほ。
女、笑いて曰く、
「あなたを案内するのは、わたしのすることではありませんね。これ、青田(せいでん)」
女、乃呼青田、至則一少婢也。
女、すなわち「青田」を呼ぶに、至ればすなわち一少婢なり。
女が「青田」と声をかけると、やって来たのはコドモの侍女であった。
「あい、なんでちょうか」
「青田、おまえ、このひとを案内しておやり」
「あい」
いひひひ。
青田と呼ばれた少女はイジワルそうに笑って言った、
「おまえ、ついておいで」
「へい」
唐某はイヌのように頷いたのであった。・・・・・・・・・・
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もう一回、続く。
「知識人を批判するとは怪しからん!彼らは大学やフランスや研究所やマスメディアにたくさんおり、以前は社会主義国や社会主義政党にもたくさんいた、立派な方たちなのだぞ!かくいうわしもそうなのだぞ!」
と怒ってはいけません。おいらが作っているのではなくて、清の南皋居士・楊鳳輝「南皋筆記」に書いてあることなのですからね。ひっひっひ。