もう明日は出勤かあ。
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休みのうちに終わらせておきたいので、昨日の続き。
いひひひ。
イジワルそうな少女・青田の案内で蛙国内を遊覧することになった読書人・唐某ですが、蛙国の地はどこに行っても
蒼苔碧蘚、白石清泉、頗覚幽雅、迥異人間。
蒼苔・碧蘚、白石・清泉、すこぶる幽雅にして迥(はるか)に人間に異なるを覚ゆ。
青いコケ、みどりのシバ、白い石、清らかな泉・・・、たいへん静かでゆったりしていて、ニンゲン世界とは大いに違うのであった。
「いや、すばらしゅうございますなあ・・・さすが!」
と唐某は感動した。
と、前方から緑の服を着た数人の男がやってまいりました。青い襟、紫の帯をしている者もおります。みな知識人階級の者らしく、緑の冠をかぶり立派なヒゲを蓄えておる。
彼らは難しそうなことを議論しながらやってきたが、唐某を見つけて、そのうちの一人が声を上げて曰く、
此海外人来吾国参観者。蓋一難之。
これ、海外人の吾が国に来たりて参観する者ならん。けだし、これを一難せんか。
「お、あれは海外の人だ。われらの国に来ていろいろ遊覧しているようだぞ。ちょっとからかってみるか」
別の一人が曰く、
方今海外競尚文明、非復老大支那矣、恐不能難、奈何。
方今、海外競いて文明を競う、また老大の支那にあらざれば、恐るらくは難ずることあたわざらん。いかんぞ。
「おいおい、近年では海外のいろんな国は文明開化を競い合っているのだぞ。あの古く動きの鈍いシナであればともかく、そのほかの国のひとではからかっても逆襲されるのが落ちだ。どうするかな」
(「支那」とかチュウゴクを蔑視する言葉に満ちております。が、おいらのせいではないので、楊鳳輝さんに言ってください。)
一行の中のまた一人が曰く、
姑試之。
しばらくこれを試みん。
「まあためしにやってみようやないか」
唐某これらの会話を聞き、「あわわわ」と怯えはじめ、彼らが近づいてくるにしたがって足はすくみ目はきょろきょろとまわりを見回すばかりでどこかに逃げ出しそうな様子となった。
いひひひ。
少女はイジワルそうに笑いながらも、男たちに向かって言った。
此黄三娘子客、奈何欲以刺。刺不休者涜遠客哉。
これ黄三娘子(こう・さんじょうし)の客なり、いかんぞ以て刺せんと欲するか。刺して休(や)まざる者は遠客を涜(けが)さんとするなり。
「この人は、黄家の三番目のお嬢さんのところで迎えているお客さんなんだよ。どうしてイジメようなんてするんだい? イジメ続けようとするやつは、遠くから来たお客さんをやっつけようとするひとだよ。
うちのお嬢さんが黙ってはいないよ!」
すると一行は
「げげー、黄三娘子かよー」
「あの女はマズいよ」
と言いながら唐某をイジメることなく立ち去って行った。
青田はそれを見送って、
「うちのお嬢様はガマだからね、さすがにみんなビビるね、いひひひ」
といじわるそうに笑ったのでありました。
さて、唐某はこれ以上この国にいると、またさきほどのような知識人たちがやってきてどんな攻撃を受けるかわからないので、案内の少女・青田に
「そろそろ帰りたいのですが・・・」
と申し出た。
「そうかい。いひひひ」
少女はもと来た道を引き返しました。
やがて黄三娘子の屋敷に戻ると、三娘子は、
おほほほ。
笑問曰、客亦知天地間有蛙国否。
笑いて問いて曰く、「客また天地の間に蛙国有るを知るや否や」と。
笑いながらお訊ねになりました。
「お客さま、天と地の間の世界にカエルの国があることがお分かりになりましたか? それともまだかしら?」
唐曰く、
唯唯。
唯唯(い・い)。
「分かりましてございます、分かりましてございます」
おほほほ。
「それではそろそろお国に還してあげましょうかね。青田、送っておあげ」
いひひひ。
少女・青田に案内されて、唐某は横穴をいくつも折れ曲がり、とある枯れ井戸の底へと連れて来られた。
「そこの縄梯子を伝って昇るといいよ」
「あいでちゅ」
今や心が優しく、コドモのように純粋になっていた唐は言われるままに縄梯子を伝って井戸の壁をよじ昇り、ようやく地上に出た。
「どうもいろいろありがとうございまちたあ・・・」
と井戸の中を覗きこむと、そこにはもういじわるそうな少女の姿は無く、イボイボのある青い小さなカエルが
ギギヒヒヒ
と鳴いて、それからピョンと跳ねて横穴に隠れてしまったのであった・・・。
唐某は、
自此不復自矜、遂成謙謙君子云。
これよりまた自矜せず、ついに謙謙たる君子と成ると云えり。
それ以降、二度とエラそうにすることがなく、ついには謙譲の徳ある物静かな紳士となった、という。
南皋居士曰く―――
「易」にいう、
謙謙君子、用渉大川。
謙謙たる君子、用って大川を渉(わた)るべし。
へりくだり、人をうやまうような立派な人は、大きな川を渡るような、大きな仕事を成し遂げることができる。
と。唐のような読書の士が、カエルの国で学ぶことでこのような君子になったのである。やはり重要なことではないか、外国のことを学ぶことは。
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以上、おしまい。エンディングの「ゲゲゲの歌」を聴きながらお別れでございます。清・南皋居士・楊鳳輝「南皋筆記」巻四より。
ヤマ無し、オチ無し、意味無しの「同人誌」レベルのお話、とお笑いになるのは勝手でございますが、オトナなら、これにもまた学ぶところはあるのではありますまいかな。ひっひっひっひ。