春は何処ぞ。
今日も寒いので、暖まるお話を。(ただし心温まるお話ではございませんので、悪しからず)
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漢の武帝のとき、丹丹(たんたん)という国からの使いがやってきた。
やってきたのは大寒の時節。ちょうど今ごろである。使いの者は夏の終わりに献上品を持ってその国を出るのだが、旅程あまりに遠いため長安に到着するのはこの時期になるのだそうな。そして、使いの者が帰国するともう夏の半ば。すぐに次の使いの者が本国を出発するのだという。
この国からの献上品はいつも
●辟寒香(へきかんこう)
寒さを退けるお香
である。
室中焚之、雖大寒、暖気翕然、自外而入、人皆減衣。
室中これを焚くに、大寒といえども暖気翕然として外より入り、ひとみな衣を減ず。
部屋の中でこのお香を焚きますと、大寒の季節といえども室外から暖かい気が集って来るので、その部屋のひとは重ねていた衣を脱ぎ出すのでございます。
それは便利なものですね。梁・任ム「述異記」より。 (参考)→ 「辟寒犀」
同書には、ほかにも便利なものが書いてあるのでいくつか紹介します。
●聚窟州という土地には返魂樹という木がございます。
この木はこのままではただの木なのですが、
伐其根心、玉釜中煮汁、又熬之、令可丸。名曰驚精香、或名震令丸、或名反生香、或名却死香。死尸聞気即活。
その根心を伐りて玉釜中に煮汁し、またこれを熬(い)りて丸すべからしむ。名づけて驚精香といい、あるいは震令丸と名づけ、あるいは反生香と名づけ、あるいは却死香と名づく。死尸気を聞せば即ち活す。
その根の芯を切り取って玉製の釜の中で煮つめる。さらにこれを火にかけて炒り、軟らかいうちに丸めて丸薬とする。これが「精神びっくり香」といわれるもので、あるいは「ぶるぶる震えさせ丸薬」「生き返らせ香」「死を追い返す香」ともいわれる。死人にこの匂いを嗅がせると生き返るのである。
これは便利なものですね。「しまった、死んじゃった」というときに手軽に使える。
●懶婦草は広州・桂林から献上されてくるもので、これは丸薬やお香にするような手をかける必要はない。
見之令人睡。
これを見ればひとをして睡らしむ。
これを見せるだけでひとは眠り込んでしまうのである。
「すぐ寝てしまうなんて、さぼり癖のあるうちのヨメみたいだね」
というので「懶婦草」という。また、睡草、酔草とも呼ばれる。 (参考)→ 「開元灯燭」
わしは春先になるとよくこれでやられるのであろう、自分でも意識せぬのに寝過ごして遅刻したり会議中に眠ってしまう。誰が仕掛けてきているのかわからぬが、おそろしい草である。明日もやられるかも知れぬ。