令和2年9月20日(日)  目次へ  前回に戻る

ハロウィーンに向けておそろしい魔物たちのキャラクターデザインが進んだ。だがハロウィーンまでわしは地上にいるであろうかの方が問題。

明日はさぼりますよ。シゴトも更新も。

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尹山人の話の続きをしておきます。

南京市内に住む、とあるおえらい方の息子さんが、まだ冠礼も済ませていない少年であったが病いを得て明日をも知れぬ重篤の状態となった。

おえらい方はいろんな医師に頼んで往診してもらったが、千金の薬を調剤しても効果がない。

おえらい方の御母堂が、孫可愛さのあまり、ついに以前から尊敬していた尹山人に頼み込みに来た。

尹山人は、「人にはみな宿命というものがあって、あまり動かさない方がいいんじゃが・・・」と困っていたが、ついに

太夫人遇我厚、不得已、費我十年功爾。

太夫人我を遇すること厚し、やむを得ず、我が十年の功を費やさんのみ。

「あの御母堂さまは、わしをずいぶん大切にしてきてくださった方じゃからなあ。仕方ない、わしの最近の修行十年分のたくわえを使ってみるか」

と言いまして、二つのベッドを並べさせ、片方に自分、もう一方に重病の少年を寝かせ、

縛少年之足於尹足、連属数重。

少年の足を尹の足に縛ること、連属して数重ねなり。

その子の足を山人の足に、何重にも縛り着けた。

深夜、

尹鼓気運転、喉嘑嘑有声。気達湧泉、貫少年足。

尹、気を鼓して運転し、喉に嘑嘑(ここ)として声有り。気湧泉するに達し、少年の足を貫く。

尹は体内の気を拍動させぐるぐると巡らせて、のどの奥からごうごうと音を立てはじめた。やがて、気は噴き出し始めたらしく、少年の足は何ものかに貫かれたように脈動した。

すると、少年は、

大熱、遍体流汗如雨注、臭穢畢泄。

大熱し、遍体に汗を流して雨の注ぐが如く、臭穢泄し畢(おわ)れり。

高熱を発し、体中から、雨がほとぼしるように汗を流しはじめた。そして、悪臭のする汚いものも排出したのである。

朝になった。

解其縛、而少年蘇蘇有生色、別授刀圭薬、徐服爾癒。

その縛を解くに、少年、蘇蘇として生色有り、別に刀圭の薬を授け、徐むろに服するのみにして癒ゆ。

縛ってあった足を解いて、しばらくすると、少年にはいきいきとした顔色が戻って来た。そこで山人は、別途、ナイフで削ったクスリを調合し、あとはそれを内服するだけで、だんだんと治ったのである。

一か月ぐらいしたころ、

「すごいではありませんか!」

と、きらきらした目の少年が尹のもとにやってきました。

「わたしは先生に治癒してもらった少年の、友人であります。実は、最近、朱子の本を読んでいて、

―――万物に理があるんじゃから、その理をひとつひとつ究めて行けば、やがて世界の真理を体得することができるんじゃ。

と書いてあったので、

「ようし、ではまず自室の前に植えられている竹の理を求めてみよう」

と思いまして、毎日毎日、竹ばかり見つめているうちに、すべてのモノが竹に見えてきて、毎日「いひひ、これも竹だ、あれも竹だ」と言うようになってしまいました。

そして、ついにある日、

「そうだ、竹の中がどうなっているか、調べてみよう、ひっひっひ」

と、使用人を竹と勘違いして切りかかってしまって、座敷牢に入れられていたんです。

が、先生のことを聞いて、もしかしたらわたしの心も治してもらえるのではないかと思い、脱け出してまいりました!」

と自己紹介した。

そして、

走従尹遊、共寝処百余日。

走りて尹に従いて遊び、寝処を共にすること百余日なり。

尹のあとに従ってあちらこちらへ行き、一緒に寝ることが百余日にもなった。

尹は

爾大聡明。

爾は大いに聡明なり。

「おまえさんはどえらく賢いのう」

と大いに喜んだ。だが、ある日言うに、

第本貴介公子、筋骨脆、難学我。我所以入道者、危苦堅耐、世人総不堪也。

ただもと貴介の公子にして、筋骨脆く、我を学び難し。我の道に入る所以のものは、危苦堅耐にして、世人すべて堪えざるなり。

「ただしかし、どうしてもいいところの生まれじゃからな、筋肉や骨相がひ弱で、わしの学問を学ぶことはできないようじゃ。わしの学問に入門しようとしれば、危険で苦しいことに強く耐えなければならんが、あまりきつくて今まで誰もがまんできなかったほどじゃからな。

爾無長生分、其竟以勲業顕哉。

爾、長生の分無けれども、それついに勲業を以て顕かならん。

おまえさんは、長生きする運命はもらっていないようじゃ。しかし、いつの日か、何かどえらいことを仕出かしてくれるじゃろう」

その少年は

悵然惋之。

悵然としてこれを惋(お)しむ。

がっかりした様子で、残念そうに去って行った。

この少年こそ、後の陽明先生・王守仁である。

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「客座贅語」巻八より。ついにビッグネームが出てきましたが、尹山人の活躍はこれに尽きることがなく、まだ続きがあります。しかも山人はボーイズに密着するのがスキなのかも知れない疑惑も、沸いてきました。しかし今後もご紹介している時間があるかどうか。わしは何しろ残存思念波じゃからなあ・・・。だんだん弱ってきて、平日になったら一気に弱ると思います。しかもわしの占い玉によると、休み明けには何やら常人でもキツイようなことが起こるらしいんじゃよ。

 

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