ぶたとのとその愛馬の×丸号。あらゆる合戦において無様に逃げ回って生き延びてきたぶたとのの相棒だ。逃げ足はそこそこ速いが、天に登るような力はありません。
群馬県行ってきましたが、風がすごかった。洞穴の中でもごーごー聞こえるぐらいであった。天候の力はすごいなあ。
・・・・・・・・・・・・・・
ところで、からっ風なども含む天地の間の万事を支配する天帝の名前を御存じですか。知らないひとがいるといけないので、教えておきます。
唐の時代のこと、河北・漁陽(今のペキンあたり)のひと、張堅、字・剌渇は、
少不羈、無所拘忌。
少くして不羈にして、拘忌するところ無し。
若いころから何事にも縛られず、礼儀や社会通念などにこだわることが無かった。
あるとき、
張羅、得一白雀、愛而養之。
羅を張るに一白雀を得て、愛してこれを養う。
網を張って鳥を捕まえていたら、一羽の白いスズメがかかった。張はこのスズメがかわいいので、(食べずに)飼うことにした。
すると、何やら夢に頑固そうなじじいがよく出てきて、
毎欲殺之。
つねにこれを殺さんと欲す。
毎回毎回いろんな方法で張堅を殺そうしてくるのである。
これに対して、
白雀輒以報堅、堅設諸方待之、終莫能害。
白雀すなわち以て堅に報じ、堅諸方を設けてこれを待ちて、ついによく害する無し。
白いスズメがいつも張堅に次はどんな方法で攻撃してくるか教えてくれたので、堅はいろんな方法を講じてそれを防ぎ、とうとうやられることはなかった。
スズメの言うところでは、
「あのじじいは天帝の劉天翁でチッチ。おいらをあんたにコロさせようとしたのだが、コロさないので怒ってあんたをコロそうとしているのでチッチ」
なんだそうである。
劉天翁は、なかなか張堅をやっつけられないので、
遂下観之。
遂に下りてこれを観る。
とうとう天から降りてきて、自ら張堅がどんな人物か確かめようとしに来た。
スズメは張堅に教えた。
「チャンスでチッチ」
「チャンスって、何の?」
「おいらの言うとおりにするでチッチ」
堅盛設賓主、乃竊騎天翁車、乗白龍、振策登天。
堅、盛んに賓主を設け、すなわち天翁車を竊騎し、白龍に乗じて策を振いて天に登る。
張堅は、大いに宴会を開いて天翁を接待し、天翁が喜んで接待を受けている間に天翁の車に乗り込み、牽引する白龍にむちを振るって、天に登り始めたのであった。
「なんじゃと!」
天翁乗余龍追之、不及。
天翁、余龍に乗じてこれを追うも、及ばず。
天翁は、ほかの龍にのって張堅を追いかけたのだが、(白龍が一番速いので、)追いつくことはできなかった。
「このまま天宮を乗っ取るでチッチ」
「天宮を乗っ取る? ええい、なんとでもなれ」
堅既到玄宮、易百官、杜塞北門。封白雀為上卿侯、改白雀之胤不産於下土。
堅すでに玄宮に到り、百官を易(か)え、北門を杜塞す。白雀を封じて上卿侯と為し、改めて白雀の胤を下土に産せざらしむ。
張堅は天の宮殿に到着すると、すぐさま大臣や官僚たちを交代させ、また後宮を封鎖した。そうしておいて、白スズメを大宰相に任命し、白スズメの子孫たちが天上にのみ生まれ、地上に生まれなくていいように(制度?を)改正した。
「わーい、革命成功でチッチ」
「何がなんだかわからんが、これでいいのか?」
こうして、唐の時代から、天帝は劉天翁から、張堅に交代したのでございます。
しかしその後も
劉翁失治、徘徊五岳作災。堅患之、以劉翁為泰山太守、主生死之籍。
劉翁治を失い、五岳を徘徊して災いを作す。堅これを患(うれ)い、劉翁を以て泰山太守と為し、生死の籍を主(つかさど)らしめたり。
劉翁は政権を失ってしまい、中原周辺の五つの山をめぐってあちこちで災害を起こした。新天帝の張堅さまはこれを憂慮され、最終的に劉翁を死者が赴くとされる東岳・泰山の王さまに任命して、人類の生まれる予定表と死ぬ予定表を所掌させることにした。
天地の間に異常気象などがあるのは、張堅さまが自由不羈な方なので、ときおり先例にないような気象を引き起こすから、なんだそうでございます。
・・・・・・・・・・・・・・
唐・段成式「酉陽雑俎」巻十四より。その後、張堅さまが交代したとはいわれておりませんので、今も天帝はこのひとだろうと思われます。違ったらすみません。