これが魚でもなくたい焼きでもなくたこ焼きだとしたら、絶対どこかに誰かの落ち度があるのではなかろうか。
マジメに生きているので、今日のような寒い夜も、かっこいい服を着て暖房が効いた部屋にいるから(表面だけとはいえ)シアワセだなあ。しかし肝冷斎はマジメに働かないから新聞紙の服しかなかったからもうダメだろうなあ。
・・・とみなさんは思っているのではないでしょうか。洞穴の中は暖かいのでご心配は無用です。飯も食っております。本当のシアワセを味わっております。しかし最近肉食ってないなあ。
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戦国の時代、韓の文侯(在位前386〜前377)がごはんを食べておりますと、おかずは炙り肉であった。
「これはうまそうだぞ」
と箸をつけようとして、「むむむ」と気が付いた。
髪繞之。
髪、これを繞る。
炙り肉の周りに髪の毛が一本、まとわりついていたのだ。
文侯はすぐに宰人(料理人)呼び出して、詰問した。
女欲寡人之哽耶。奚為以髪繞炙。
女(なんじ)、寡人(かじん)の哽(むせ)ぶを欲するや。奚(なん)為(す)れぞ髪を以て炙(しゃ)に繞らす。
「おまえは、わしにどういう怨みがあってのどを詰まらせてようとしたのじゃ? どうして炙り肉に髪の毛をまとわりつかせたのだ!」
「なんと!」
宰人頓首再拝曰、有死罪三。
宰人、頓首再拝して曰く、「死罪三有り」と。
料理人は、頭を地面にがつんと打ちつけ、もう一回打ちつけて、それから言った。
「(申し訳ございません。)わたしが死罪になるべき落ち度が三つございました!」
「どんな落ち度があったというのか?」
料理人は言った。
援礪砥刀、利猶干将也。切肉肉断、而髪不断。臣之罪一也。
礪(れい)を援(と)りて刀を砥ぎ、利きことなお干将のごときなり。肉を切りて肉断たるに髪は断たれず。臣の罪一なり。
「砥ぎ石を手にして庖丁を研ぎました。南方の名剣・干将(かんしょう)のように切れ味よくしました。その庖丁で肉を切ったのに、どういうわけかその髪の毛は切れなかったようです。これがわたくしの一つ目の落ち度でございます。
援木而貫臠、而不見髪。臣之罪二也。
木を援りて臠(れん)を貫くに、髪を見ず。臣の罪二なり。
串を手にして切った肉を串刺しにしました。そのときにどういうわけかその髪の毛は見つけることはできなかったようです。これがわたしの二つ目の落ち度でございます。
奉熾爐、炭火尽赤紅而熱炙、而髪不焼。臣之罪三也。
熾爐(しろ)を奉じ、炭火ことごとく赤紅にして炙を熱するに、髪焼けず。臣の罪三なり。
炉にさかんに火を焚き、炭がすべて真っ赤になるまで熱してから肉を焼きましたのに、どういうわけその髪の毛は焼けなかったようです。これがわたしの三つ目の落ち度でございます」
これを聞きまして、
公曰、善。
公曰く、「善し」と。
侯はおっしゃった。「よくわかった。なるほどな」
それから
乃召堂下、譙之、果然。
すなわち堂下を召してこれを譙(せ)むるに、果たして然り。
今度は側近の(食べ物を運んでくる係の)者を呼び出してこれを詰問したところ、こいつが犯人であった。
こいつは、
微疾臣。
微(ひそ)かに臣を疾(にく)む。
料理人に隠れた怨みがあり、それの怨みを果たそうとしたのである。
もちろんこいつはぶちゅぶちゅ〜、と誅殺されました。
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「韓非子」巻十「内儲説下」より。バイトテロの先駆者みたいなやつですね。
わたしなども現役時代はよく落ち度があって、何とか誤魔化そうとしましたが、誤魔化しきれずに叱られました。この料理人みたいに理路整然と誤魔化せていれば、もっとマジメにシゴトする気になったのかも。それにしても肉食いたいなあ。