押しつぶされるような人生の中から、逃れる方法はあるのだろうか。リリー・マルレーン、もう一度会えるかい?
やっと金曜日。だが明日も出勤だ。もうダメだ。でぶー。
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やっと時間的にゆとりができたので、「9月30日」の続きです。
・・・ついに捕らえられて県庁のお白洲に引きずり出された羊角禅師であった。
士民観者如堵、皆言僧不可犯。公不聴、杖之至百。
士民の観者、堵の如く、みな言う「僧、犯すべからず」と。公聴かず、これを杖すること百に至る。
読書人階級の者、人民ども、見物人が垣根のように集まってきて、彼らみな口々に云う、
「禅師さまに乱暴はなりませぬぞ」
と。しかし、張県令はその声に従わず、禅師を杖で100回ぶん殴らせた。
「ああ、おいたわしや」
と人民たちは嘆いたが、―――おお、見よ!
僧了無傷、而杖隷倶呼号称痛。
僧、無傷に了し、杖隷ともに呼号して「痛なり」と称せり。
禅師は100回殴られても無傷であった。これに対し、杖係の下人たちはみな「腕が痛うございます」と泣き叫ぶ始末であった。
「むむむ・・・」
公釈其縛、謂曰、汝能呪杖者死、復呪其生、吾即活汝。
公その縛を釈きて謂いて曰く、「汝よく杖者の死を呪い、またその生を呪わば、吾即ち汝を活(いか)さん」と。
県令は僧のいましめを解かせながら言った。
「なんじ、今おまえを撃った杖係のやつを呪い殺すことができるかな? 殺した上で生き返らせることができたら、わしはおまえを生かしておいてやろうかと思うのだがのう」
禅師は県令を見つめまして、にやりとさげすむように嗤った。
「先にわしを捕らえさせるには死刑囚を使い、今度は杖係の下人たとを実験材料ですか。ひっひっひ、県令どのご自身で試してみなさる気は・・・」
「うるさい!」
張県令は、
遂収於獄。
遂に獄に収む。
禅師を牢獄に収監してしまったのであった。
・・・ひっひっひっひっひ・・・。
其夜、大風撼屋宇。公曰、是僧所為也。乃正衣冠而坐。
その夜、大風、屋宇を撼かす。公曰く、「是れ僧の為すところなり」と。すなわち衣冠を正して坐せり。
その夜、暴風吹いて庁舎を揺るがし、崩壊しそうになった。県令は「これはあの僧のしわざじゃぞ」と言って、正装をして部屋に正座した。
正座して精神を統一したところ、邪悪な力をさえぎることができたのであろう、暴風はわずかに弱まり、庁舎は激しく揺れたものの、崩壊することはなかった。
やがて朝が来ると、暴風も収まった。昨日の様子を見るに、また人民たちが禅師の裁きを見に県庁に集まってくるのは確実であったから、彼らが集まる前に処罰を決めるのが得策である。
待曙升堂、呼僧出、q聲詰責、褫其衣縛之、以届方拍案。
曙を待ちて堂に升り、僧を呼びて出だして、q聲に詰責し、その衣を褫(うば)いてこれを縛り、以て拍案に届方す。
県令は夜が明けると政庁に入り、牢内から僧を呼び出して、激しい声で責め立てて、服を剝ぎ取って縛り上げ、罪人を打つための板の間に挟み込み、強く押した。
「届」(カイ)は「極める」「致す」の意味から我が国では「とどける」という訓になっていますが、本来は「尸」(しかばね)の中に入っているのは「凷」(カイ)で、この字は土をカタにはめている形、「潰」と同じく「おしつぶす」の意味です。
禅師は庁舎ごと県令を呪った術が効かなかったからか、深刻な顔つきであったが、挟まれてついに呻き声をあげ、
肋下墜一珠、紅光閃爍。
肋下より一珠の、紅光閃爍たるを墜とせり。
胸のあたりから、赤くぎらぎらと光る珠を落とした。
「これがお前の呪力のもとだな。これでもう呪殺はできまい」
県令は珠を拾い上げると遠くに投げ捨て、獄卒を呼んで、
将以斧劈其頭。
斧を以てその頭を劈かんとす。
斧で僧の首を斬り落とすよう命じた。
「ひっひっひっひっひ」
禅師は板の間から頭だけを出しながらなお笑い、
待某自死。
某の自死を待て。
「わしは自分で死ぬわ」
と言うと、そのまま息絶えてしまった。
「ふむ。本当に死んだのかどうか・・・」
公恐其詐、使舁至獄中、掘地瘞之、圧以巨石。
公その詐を恐れ、舁きて獄中に至らしめ、地を掘りてこれを瘞め、巨石を以て圧す。
張県令は死んだふりをしただけではないか、と考え、獄卒たちに死体を担いで牢獄に戻させ、そこの地面を掘ってそれを埋めさせると、その上に巨大な石を置いて封じ込めた。
県令はその石に朱色の墨で大きく「羊」と書いた。
「こいつの術のために死んだヒツジの怨恨によってその呪力を抑えさせるのじゃ」
さて、巨石はその日から三日にわたって、何者かが地中から持ち上げようとするかのように何度も
ヴー、ヴ―・・・
と不気味な音を立てて揺らいだ。
しかしついに覆ることはなく、三日の夜からは動かなくなった。
さらに
三日発視、屍已腐矣。
三日にして発視するに、屍すでに腐れり。
三日経ってから石をのけ、土を掘って確認してみたところ、すでに死体は腐り初めていた。
ということである。
ここに至って県令は羊角禅師の徒党を捕らえるよう命じたが、すでにいずこへともなく去ってしまった後であった。
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\( ‘ω’)/勝ちました。正義かどうか途中までわからなかったが、勝ったので正義なんです。明・劉忭等「続耳譚」巻二より。
なお、実は、この県令の張昺さまは、地方官として各地で不正を改め邪悪を破って多くの治績を挙げ、「明名臣言行録」にも採り上げられている、というエラいひとなんです。羊角禅師もよくやったが、相手が悪かったのであろう。でぶー。