平成28年11月12日(土)  目次へ  前回に戻る

秋から冬にかけてはシゴトも無く、のんびりと「任侠三度合羽」を見て暮らすこともできるカッパの社会だ。ニンゲン社会となぜこんなに違ってしまったのだろうか。

休日は地下から這い出してきて、地上の光も浴びたりいたします。ああキモチいいなあ。歪んでいた心も健全になってくるカモ。

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ある読書人が山中の寺に籠って勉強していた。

吚唔一夜、倦而仮寐、聞窗外語。

吚唔(いご)として一夜し、倦みて仮寐せんとするに、窗外に語るを聞く。

「いー」とか「おー」とか読書(チャイナの読書は原則として音読する)して一晩過ごし、疲れて仮眠しようとしたとき、窓の外から人の声が聞こえた。

その声が言うには、

敬問先生、往某村、当以何路。

先生に敬問す、某村に往かんには、まさに何れの路を以てすべきか。

「知識人の先生に謹んでお訊きいたしますが、なにがし村に行くには、どう行けばよろしいかお教えくださいませんか」

深夜の山中である。読書人は、

怪問誰何。

怪しみて誰何を問う。

怪しんで「あなたは何者でありますかな」と質問した。

答えていうに、

吾鬼也。

吾、鬼なり。

「わたしは霊なんですよ」

山中を行くのに道に迷ってしまったが、もともと山中には幽霊があまりいない上に、

有一二無頼賤鬼、又不欲与言、且恐謬指受侮。

一二無頼の賤鬼有れどもまたともに言うを欲せず、かつ謬指され侮りを受くるを恐る。

「数体のやくざ者の賤しい幽霊はいるものの、そんなやつと口は利きたくないし、あいつらに間違った道を教えられてバカにされるのもイヤですからね」

と思ってうろうろしていたところ、

聞書声、揣同気類、故不避幽明異路。

書声を聞き、同気の類ならんと揣(はか)り、故に幽明異路なるを避けざるなり。

「書物を読んでいるお声を聞いたので、これは同じ読書人の身分のひとらしいと推量して、生死の世界を別にしてはおりますが、あなたを避けずに出てまいったのです」

というのであった。

「なるほど」

そこで、

具以告、謝而去。

具さに以て告ぐるに、謝して去りぬ。

村への行き方を詳しく教えてやると、感謝して去って行った。

ああ。

軽薄之徒、遇有問津、往往顛倒東西戯誑之。是亦無頼賤鬼之流亜歟。

軽薄の徒、たまたま津を問う有れば、往々にして東西を顛倒してこれに戯誑す。これまた無頼賤鬼の流亜なるか。

現世においても軽薄なやつらは、人生の道行きを問われて、まったく別の方向を教えてふざけていることがある。やつらは山中に住むやくざ者の賤しい幽霊と同じたぐいのものなのではなかろうか。

だまされているのに気づかずに、いまだにまったく逆の方向をうろうろしているやつ(※)も多いので、困ったことである。

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清・朱海「妄妄録」巻七より。だいぶん批判精神も復活してまいりまして、健全になってきまちたよー。

※=みなさんのことかも知れませんのでちゅよー。まさか、ね。

 

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