←春がくる?
ついに二月も末になりました。そろそろ暖かくなってきて、「寒冷斎」もおしまいか。おしまい、といえば、今日は昼間糖分のコントロールを失ったのであろうか、頭がぐるぐるしてあやうく倒れるところでした。ほんとにおしまいになりそう。
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さてさて、今日は先週の金曜日、21日の日録の続きになります。
明代16世紀半ばごろの実用的な「幻術」について。
・・・・旅人、とある村に至った。
村の中央の広場にある井戸の側でぼんやり休んでいると、若い女性が広場にやってきて、
以麥置磨、剪紙為驢。
麥を以て磨に置き、紙を剪りて驢を為す。
ムギを共用の臼の穴に入れると、持ってきた紙をはさみでチョキチョキとロバの形に切った。
それから女は何やらぶつくさと呪文を唱えて、
「えいや」
と印を切った。
ぼううううん。
あら不思議、紙の驢馬はほんものの驢馬に変じた。
その驢馬は
運磨得麺。
運磨して麺を得たり。
広場をぐるぐると回って石臼を挽き、麦から麦粉を作った。
麦粉が出来上がると、女、
旋復収驢入袖。
旋(たちま)ちまた驢を収めて袖に入る。
ひょい、と驢馬をつまみあげ、袖の中に入れてしまった。
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しばらくすると、村童が牛・羊・驢馬・馬などのドウブツを引き連れてやってきた。
「こぞう、どこに行くんだい?」
「村の外の原野に放牧に行くのでちゅう」
そこで旅人も休憩を終えて、この村童と一緒に村を出ることにした。
村童は村の外の草原までやってくると、ドウブツたちを放し飼いにしたが、ただ
聚沙土以指周施画一大圏。
沙土を聚め、指を以て周施して一大圏を画く。
ぱらぱらの砂を集めてきて、それを指でつまんで落としながら、大きな円い輪を描いたのであった。
すると、
畜処其中。
畜、その中に処る。
ドウブツどもはその輪から外には出ていこうとせず、ゆっくりと寝そべっているのであった。
「どうしてドウブツどもはこの輪から出て行かないんだ?」
と問うたが、村童は
「安全だからに決まっているではありませんか。おじたまもしばらくこの中にいるといいでちゅよ」
とにこにこしているばかり。
そのうち、
童亦酣睡。
童また酣睡す。
村童もぶうすか眠ってしまった。
しばらくすると、おそろしげな唸り声が聞こえてきた。
「な、なんだ?」
有虎狼至此。
虎・狼ここに至る有るなり。
美味そうなドウブツを狙って、トラとオオカミがやってきたのだ。
「あわわ」
しかし、ドウブツはゆっくり寝そべったままであり、村童もぶうすかと眠ったままである。
トラとオオカミは、
惟蹲踞環繞於外、垂涎而已、不能入圏也。
ただ蹲踞して外に環繞し、垂涎するのみにして圏に入るあたわず。
輪のところまで来ると、そこから入ってくることができないらしく、そのまわりにうずくまってヨダレを垂らしているばかりであった。
やがて、日が傾き始めた。
「むにゅにゅ〜ん」
とアクビをしながらようやく村童は起き出し、トラとオオカミを目にすると、
「おまえたちはもう帰りなちゃい」
と命じて、ぱちんと指を鳴らした。
すると、トラとオオカミはすごすごと山中に帰っていったのである。
それから村童は
「おじたまはこの輪の中にたっぷりいまちたから、やつらは次の村までは襲ってこれませんよ。おいらと一緒に輪から出て、安心して出かけてくだちゃい」
と旅人に告げ、
開画安然而帰。
画を開きて安然として帰る。
輪の一か所を開くと、そこからドウブツどもを引き連れて、ゆっくり村に帰って行った。
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そのころまでは、
若是之類、皆以為常、不可勝紀。
かくのごときの類、みな以て常と無し、紀するにたうべからず。
この程度のことはまったく普通に為されていたのであり、記録し切れないほどであった。
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ほんとかな。
明・祝允明「志怪録」より。