本日はおふらんす御料理をお食べしたざます。苦しいざます。
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唐の宝暦二年(826)のことだそうですが、河南・梁山の范璋という読書人がある晩、深夜まで読書をしておったところ・・・
忽聴厨中有拉物声。
たちまち厨中に拉物する声有るを聴く。
突然、台所から、モノを引っ張るような音が聞こえた。
おそらくはある種の「ラップ音」であったろうか。
朝になって台所を覗くと、
見束薪長五寸余、斉整可愛、積於竈上。
束薪の長さ五寸余なるもの、斉整愛すべく、竈上に積まるを見る。
薪木が長さ十五センチ余に、ほれぼれするほどきれいに切りそろえられたのを束ねたものが、かまどの上に積みあげられているのが目に入った。
それと、
地上危累蒸餅五枚。
地上に蒸餅五枚を危累す。
地面には、蒸された餅(ぴん。まんじゅう)が五つ、危なっかしく積み上げられているのであった。
昨夜のうちにナニモノかがこれらを置いて行ったようなのであるが、いったいどういうことなのか、まったくわからなかった。
別の夜には、
有物扣門、因拊掌大笑、声如嬰児。
物の門を扣(たた)き、因りて掌を拊(う)ちて大笑し、声の嬰児の如き有り。
ナニモノかが門を叩くのであった。しばらく放っておくと、手を打ちながら大笑いしはじめる。その声はまるで赤ん坊のようなのである。
如此経三夕。
かくの如くして三夕を経たり。
これが三日続いた。
「ひとが読書しているというのに、どういうつもりか」
范璋はだんだん腹が立ってきて、四日めの晩、
乃乗其笑、曳巨薪逐之。
すなわちその笑うに乗じて、巨薪を曳きてこれを逐う。
そのものが門を叩いてからまた大笑いしている間に、大きな薪木を担いで行って、いきなり門を開け、それを追い回した。
其物状如小犬。
その物、状は小犬の如し。
そのとき、はじめてそのものの姿を見たが、それはただの小犬のようであった。
しかし范璋が追い回して、
連却撃之、変成火、満川而滅。
連却これを撃つに、変じて火と成り、川に満ちて滅す。
続けざまに薪木でぶん殴り続けたところ、小犬のようなモノは突然、「ぱっ」と火に変じ、さらにその火は飛び散って家の前の川面いっぱいに広がった。
「?」
范璋が呆然と立ちすくむうちに、その火は
やがて消えて行ったのである。
結局、何の怪であったのかまったく知れなかったが、その後は特におかしなことは何も起こらなかった。
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唐・段成式「酉陽雑俎」より。
はじめは「ゴンぎつね」かと思いましたが、火になって消える小犬でした。今日食べたフランス料理もこの小犬?のようにぱっと変じて消えてくれればいいのですが、腹に溜まってどんどん体重に変わるみたい。苦しい。