また、すごい太ってきました。歩くときに下が見えないぐらいなので、不注意に何かを踏んづけやすくなっておりますし、何か踏んづけたらたいていのものは踏み潰してしまうぐらいです。
おお、そうじゃ、踏んづける、といえば・・・・
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有僧中夜起。
僧有り、中夜に起く。
とあるお坊さん、真夜中ごろに目を覚まし(、小用のため?)起き上がった。
廊下に出て、暗闇の中を手探りであるいていると、
むにゅう
と何か、柔らかいものを踏み潰してしまった。
それは、踏んだ瞬間、皮が破れて中身が出たようである。
そして、そのまま動かなくなってしまった。
―――しまった。ネズミを踏み潰してしまったようじゃ。
僧はイキモノを殺さない誓いを立てていた。
悪傷生類、還坐懊恨不已、誦往生呪度之。
生類を傷(いた)むるを悪(にく)み、還り坐して懊恨して已まず、往生呪を誦してこれを度す。
それなのにイキモノを殺してしまったのだ。
僧は所用も果たさず、部屋に戻ってたいへん苦悩し、「死んだ者をあの世に送るための呪文」を唱えて、ネズミの霊を往生させようとした。
だが、しばらくすると、
一鬼来。
一鬼来たれり。
霊が一体やってきたようだ。
小さな霊であったが、僧に向かってチイチイと聞き取れない声で啼き、
索命甚急。
索命すること甚だ急なり。
「おわびにお前も死ね」と強く求めるようであった。
僧は言うた、
我非有心殺汝。
我、有心に汝を殺すにあらず。
「わしは、故意におまえを殺したわけではないのじゃ」
それでもチイチイと啼くようである。
「ほんとうに故意ではないのじゃ」
それでもチイチイと啼くようである。
「ほんとうに故意ではないのじゃ」
それでもチイチイと啼くようである。
「ほんとうにわしは・・・・・」
そのとき、ニワトリが鳴いた。―――
東方已曙。
東方すでに曙なり。
東の方はもう明るくなってきていた。
ふと我に返って立ち上がり、部屋の外を見た。
視之則一茄耳。
これを視るにすなわち一茄のみ。
踏み潰したモノをよくよく見ると、ただのナスビであった・・・。
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―――く、くだらん!
―――ふふん、笑い話にもなっていませんよ。
―――ああ、本当に情けないね、肝冷斎は。センスのかけらもない。
等々とわたしに怒ってもしようがありません。お叱りは著者にどうぞ。明・焦「支談」巻下より。
なお、この書は別に笑話集ではなくて、儒教・道教・仏教の三教に関する各種の教説、エピソードなどを通して三教が教え示すところを明らかにし、三つの教えが窮極において一であることを証そうとしたマジメな本、らしいです。このお話にも、
疑心頓尽、鬼亦不見。
疑心とみに尽くれば、鬼もまた見えず。
疑う心をすみやかに無くせば、祟りを為そうとする霊など見えなくなるものだ。
という、ありがたいオチがついているのでございます。笑い話になってなくて当たり前なのでございます。