平成24年2月14日(火)  目次へ  前回に戻る

 

今日帰りがけにコンビニに寄ったら、ひなあられがたくさん並んでいた。そういえば、クリスマスの翌日から恵方巻きの宣伝ばかり、節分の深夜からはチョコが並んでいたのだった。

なんというオロカな国でありましょうか。そしてこの国をこの二十〜三十年ほどの間にこんな国にしてしまった責任の一端はわしにもあるのだ。ご先祖さま、ご子孫さま、ごめんなちゃい。の思いで胸がいっぱいになりますのう。

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そんなわたくしにも座右に刻む銘の一つや二つはございます。

その一つが、「淮南子」巻十八・人間訓「天下三危」であります。

曰く、

天下有三危。

天下に三危あり。

この世には、三つの危ない状態があるのじゃ。

「三つの危ない状態」とは何ぞや。「地震・津波・原発」ではございません。また、「○山政権・○政権・○田政権」でもございません。

次の三つだ、というのでございます。

@  少徳而多寵。

徳少なくして寵多し。

徳は少ないのに、君主・上長の御寵愛が多いこと。

うわー、これは危険だ、おそろしい。

A  才下而位高。

才下(ひく)くして位高し。

能力は低いのに、職位は高いこと。

どひゃー、あわわわわ、おそろしい〜。

B  身無大功而受厚禄。

身に大功無くして厚禄を受く。

こちらに大した功績が無いのに、手あつい俸禄をいただくこと。

ひえ〜! あまりのおそろしさに気を失いそうじゃー!

・・・・・と、思いませんか。

なにしろ、ほんとうは徳が多かったり才が高かったり身に功績があった、としても、あなたを謗ろうとするひとの目にはその事実さえ映らない、ということを前提とせねばならないこの世でございますれば。

さて、このことから、いにしえの賢者は次のテーゼを発見した。

第一テーゼ:損之而益。 これを損すれば益す。(減らすと増える。)

第二テーゼ:益之而損。 これを益すれば損す。(増やすと減る。)

さてさて。

春秋時代、楚の荘王は宿敵・晋を河南において大いに破り、中原に覇を唱えるに至ったのでございます。

この戦いこそ史上に名高い「邲(ひつ)の戦い」でございまして、晋の軍はこの時大混乱し、河を渡って我先にと逃げようとして、先に舟に乗った将士が後から船べりにすがりついた味方の戦士たちを追い払うため、刀を抜いてその指を切り落とした。

舟中之指可掬。

舟中の指、掬すべし。

舟の中に切り落とされた指が大量に残り、両手で掬い取れるほどであった。

というのでございます(「左氏伝」。時に紀元前597年6月)が、ほんとかどうか、今となってはわかりませぬ。

この一戦に大勝利した楚の名将・孫叔敖(参照→27.6.23)は、帰国後、もちろん論功行賞第一で、楚王から領地を与えられる(「封建」)こととなった。

しかし、孫叔敖は

辞而不受。

辞して受けず。

辞退して受け取らなかった。

やがて、孫叔敖は腫物ができて臨終の床についた。その子に遺言して曰く、

吾則死矣、王必封女。女必譲肥饒之地、而受沙石之間有寝丘者。

吾、すなわち死すれば、王必ず女(なんじ)を封ぜん。なんじ、必ず肥饒の地を譲り、而して沙石の間の寝丘なるもの有れば受けよ。

「わしが死んだら、王さまは必ずおまえに功臣の子孫として領地を下さることになろう。そうしたら、おまえは肥えて豊かな地を辞退するのじゃ。砂や石ばかりの寝丘という地なら、お受けしてもよい」

それから一息ついて、

荊人鬼、越人禨、人莫之利也。

荊ひとの鬼、越ひとの禨(き)、ひとをこれを利とする莫(な)し。

「湖南の土着民どもは精霊にお仕えするのを喜ぶ。浙江の土着民どもは「きざし」を見つけては、よいことがある、と喜ぶ。ほかの人から見れば、何の利益があるのか理解できぬものじゃ。」

と言い遺して、息絶えたのでございます。

孫叔敖の死後、楚王ははたしてその子に領地を賜った。

はじめ肥えて豊かな地を下されようとしたが、その子はこれを辞退してお受けせず、瘦せて荒れた寝丘の地を乞うた。

さて、楚の國では、功績によって与えられた領地は、親から子に継ぎ孫の代にはお返しする習いであったが、寝丘の地はあまりに瘦せて役に立たぬゆえ、歴代の王はその地の返還を求めず、ために孫叔敖の子孫は楚の國の存続する間、領地を持つ貴族として続いたのであった。

此所謂損之而益也。

これ、いわゆるこれを損して益するなり。

これが、上記の「減らすと増える」ということである。

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勉強になりましたねー。ほぼ同じお話が、呂氏春秋や史記にもあります。

―――うひゃあ、またひどい時間に。(>_<)なみだ出てくる。明日も会社なので、第二テーゼの「増やすと減る」の方はまた明日。ちなみに楚の荘王については、こちらも参照→「問鼎」

 

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