平成22年11月13日(土)  目次へ  前回に戻る

笑い事では無いぞ!

ロシアの大統領がこともあろうに我が国の国内(ヨコハマ)、我が国の総理の目の前で「国後」の領有宣言(「実効支配宣言」ではないんだぞ!)をしたんだって? どうするんや、これ。・・・とりあえず思考停止。「回君伝」の続きである。

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回くんを不幸が襲った。

彼には一妻一子があったと述べたが、その幼い「一子」が死んでしまったのである。

さすがに回くんは家に帰り、葬儀を執り行った。

予往慰之。

予、往きてこれを慰む。

わたしも彼の家に弔問に行った。

かわいい盛りである。親に似て、というべきか、村内でも有名なぐらいのやんちゃ坊主であった。わたしはその子の顔だちなど思い浮かべながら、沈痛な思いで彼の家の半ば壊れた門の扉を推した・・・。

ところが、こともあろうに

回方酔。

回はまさに酔わんとす。

回のやつは、もう酔いはじめていたのだ!

そして、茫然としているわたしに向かって笑いながら言うたのだ、

絶嗣之憂、寧至我乎。

絶嗣の憂、なんぞ我に至らんや。

「跡継ぎがいなくなっ(て「家」が途絶え、ご先祖さまの魂祀りをする者がいなくなってしまっ)たことで、なんでわしが悩まねばならんのか。」

さらに、息子の亡骸の傍らで泣いている女房を頤でしゃくって、

「辛気臭い泣き顔を見せるやつがいるのだわ」

と言いまして、

相牽入酒家。

相牽きいて酒家に入る。

わたしを引っ張って飲み屋に連れて行ったのである。

だが、彼は冷血漢なのではない。その証拠に回のやつは、

痛飲達旦。

痛飲して旦に達す。

朝まで酒をあおりつづけたのだ。

その悲痛、思いやるに余りある。

さて。

わたしはその後、仕官した。

しかしもとより柔軟性の無い性格(「性剛」)、世間をうまくわたれるはずもなく(「命蹇」)、家郷に帰って不平の気持ちを酒に寄せる次第となった。

ある日、回くんは郡中の爽快な若者たち二十余人を連れてきて、わたしを引き入れ、

結為酒社、大会時各置一巨甌、較其飲最多者、推以為長。

結んで酒社を為し、大会時におのおの一巨甌(きょおう)を置き、その飲を較べて最も多きもの、推して以て長と為さんとす。

「酒飲み結社」を作ることとし、その第一回大会ではみんなの前にそれぞれ一つづつ巨大なさかずきを置いて、これで飲み較べて最も多く飲んだ者を「社長」にしようということになった。

その日、わたしは本当によく飲めた。

いつの間にか、飲んでいるのはわたしと回くんだけになり、やがて、彼もついにさかずきを投げ出した。

わたしも

已大酣、恍惚見二十飲人皆拝堂下。

すでに大いに酣にして、恍惚として二十の飲人みな堂下に拝せるを見る。

もうずいぶん気持ちよくなっていて、ぼんやりと二十人の酒飲みが、堂の下階から(社長となった)わたしに拝礼をするのを見たものである。

その日は月の明るい心地よい夜であったから、われらはそれからともに町の北の斗湖のほとりまで歩いた。そして、堤の上で、

見大江自天際来、晶瑩輝朗、波濤激岸、胸湧滂湃。

大江の天際より来たりて、晶瑩(しょうえい)として輝朗、波濤岸に激しきを見、胸湧きて滂湃たり。

大いなる川の水が天のはてから流れきて、夜月を映してきらきらときらめき、また明るく輝き、波が岸辺に激しく打ちかかってくるのを見て、胸の中にも何かが湧き立つのを感じたのだった。

「滂湃」(ほうはい)は水の勢いの盛んなるさま。「澎湃」とほぼ同じい。

われらは誰からともなく

相与大叫、笑声如雷。是夜城中居民、皆不得眠。

あいともに大叫し、笑声雷の如し。この夜、城中の居民、皆眠るを得ず。

大声を出して笑い叫びあった。その声はまるで雷のようであったから、この夜、街中の住民は誰ひとりとして安眠できなかったであろう。

現代であれば「通報サレテシマイマスタ。」になるような犯罪行為であるが、まあいいのでしょう。

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わたしはまた生活に行き詰って、いま北京に出てきている。

今年中には郷里に帰れそうにもない。

周りにいるのはみな身持ちの堅い、おえらい方々、

不敢過為顛狂、以取罪戻。

あえて過ちて顛狂を為して以て罪戻を取るをなさず。

間違ってもおかしな振舞いをしてきついお仕置きを受けるようなことはできん。

おまけに北京あたりは酒の値段が高く、安物の黄酒はとても飲めたものではない。そして、近年わたしはますます人付き合いが嫌になり、ますます酒を飲む機会が少なくなってきている。こんな状況では、

豈能如曩日之豪飲乎。

あによく曩(さき)の日の豪飲の如からんや。

どうしてあのころのように豪快に飲むことができるだろうか。

いや、できないであろう。

・・・と思っているところへ、郷里に住んでいる一番下の弟から手紙が来た。

―――兄上。相変わらずご機嫌うるわしゅうございましょうか。・・・

そんな紋きりの挨拶は要らない。この都で、ご機嫌がうるわしいはずないではないか。

けれど懐かしいから一気に読んでしまう。その手紙によれば、あの二十人の若者たちは散り散りになっていて、今連絡がつくのは回くん一人だということだ。

回くんは、女房も実家に返してしまって、ではあばら家に居ついているかといえばそうでもなく、またあちこちをさまよい、時に日雇いで雇われ仕事をして生きているという。

回家日貧、飲酒日益甚。

回の家は日に貧しく、飲酒は日にますます甚だし。

回くんの家はどんどん貧しくなっていくが、飲酒の方はどんどん盛んになっていくのだそうだ。

わたしは、弟の手紙を机上に置き、宙を見つめてためいきをついた。灯火はゆらゆらと揺らめいて、わたしの影も揺れている。

わたしは、ためいきをつきおえて、呟いた。

人不堪其憂、回也不改其楽、賢哉回也。

人はその憂いに堪えざるも、回やその楽しみを改めず、賢なるかな、回や。

みんな、そんな生活はいやじゃろう。ところが、回はそんな生活をしながらも、その楽しみを改めようとしない。おお、賢いのう、回は。

「論語・雍也篇」より。

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以上で「回君伝」(全四回)終わり。しかしこの一週間でニホンも終わってきてしまった感じが。

今日も尖閣デモに参加。北方領土返せー、もシュプレヒコールしてきましたが、この国、だめか。第二、第三の「普通のひと」Sengoku38さんが出てくれるのか。

 

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