・・・漢の時代のことでございます。
韓嬰先生がわれわれ学生に向かっておっしゃった。
「えー、詩・小雅・采菽に
優哉柔哉、亦是戻矣。
優なるかな、柔なるかな、またこれ戻(さだ)まれるかな。
ゆったりとして、おだやかで、ほんとに安らかだなあ。
という句があるが、どういうことかわかるかな」
われわれは変なことを答えて笑いものになるのもイヤなのでにこにこしたまま誰も何も答えなかった。
「あー、誰か答えようというカシコい者はおらんのかな」
「おりませーん」
わしらは声を揃えて答えた。
「ボクたちはみんなオロカ者ですからー」
「おお、そうか」
先生は頷き、
「オロカ者ではしようがないのう・・・」
と言うて、話始めた・・・その言に曰く、
曾子有過、曾皙引杖撃之、仆地。
曾子過ち有り、曾皙杖を引きてこれを撃ち、地に仆(たお)る。
「曾子」は、孔子の弟子で親孝行で有名な曾参のことで、曾皙はその親父です。
曾参が何か間違ったことをしたというので、親父の曾皙が怒り、杖を手にして(畏まっている)曾参を激しく打ち据えた。
曾参は気を失って、地面に倒れてしまった。
親父は
「ふん、放っておけ」
と曾参をそのままにして奥の間に入って行ってしまいました。
有間乃蘇、起曰、先生得無病乎。
間ありてすなわち蘇り、起ちて曰く、「先生、病無きを得んや」と。
死んだように気を失っていた曾参は、しばらくして息を吹き返し、起き上がりながら、
「先生、わたしは間違っておりませんですよね」
と呟いた。
魯の国には、曾参を「若いのに親孝行なおとこだ」と称賛しているひとが多く、そのときも、その呟きを曾参ファンのひとりが聞きつけて、孔子のところに行き、
以告夫子。
以て夫子に告ぐ。
「こんなことがあったのでございますよ。曾参さんはエライですよねー」と孔先生に告げた者があった。
「なんじゃと!」
孔子はそれを聞くとぎろりと眼を光らせ、すぐ他の弟子たちに
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今日はここまで。「韓詩外伝」巻八・二十五章より。