浙江・長興の臧湘友は少年時代、不思議なひとと出会った。
そのひとは小川のほとりで、臧に一巻の書物を与えたのであった。なぜそんなことになったのか、については、本人が黙して語らなかったから詳らかでない。
その書は、剣――それも「弾剣」という特殊な剣術の書であった。この剣は振るい、刺すだけでなく、投げることもある。
わし(王阮亭)の友人・陸辛斎がかつて臧の所持する剣を見せてもらったことがある。
まず、剣を容れる箱は、
以雷撃木彫成、有鉄丸二、即雌雄剣也。
雷撃木を以て彫成し、鉄丸二あり、即ち雌雄剣なり。
カミナリに撃たれて燃えた木を彫って作ったものであった。中には、鉄の弾丸のようなものが二つ入っていた。これが雌雄の二剣なのである。
ちなみに、カミナリに撃たれて燃えた木は、一度カミナリが通っているので絶縁体の機能があるのである――とされていました。
臧が言うには、
錬剣須寒天乃可。
剣を錬るはすべからく寒天のみすなわち可なり。
この剣の修行は、寒い天候のもとでしかできないのですよ。
なぜなら、
錬時、時有雷電遶戸、逼人毛髪。
錬時、時に雷電の戸を遶り、ひとの毛髪に逼る有り。
修行中に、雷電がこの剣を慕って家の周りを駆け巡り、修行者の毛髪に近づいて焼いてしまうことがあるのです。
寒い時期だと火気が弱く消えてしまいますが、それ以外の時期だと本当に火がついてしまい、修行者が燃えてしまうから、ダメなのです。
・・・というのであった。
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ほんとかどうかはわたしは知りません。清の時代のお話です。「池北偶談」巻二十五より。