清・王阮亭「池北偶談」巻二十より「楊世栄」
・・・楊世栄なるものは汾陽(山西)のひとで、もともとは器材を売り歩いて生計を立てていた。
ある晩、夢の中で誰かに
汝富貴至矣。
汝、富貴至れるかな。
おまえには、これから富と高い地位がやってくるであろう。
と言われ、目を覚ますと・・・
「おお!」
と驚いた。
覚則身忽長二丈余。
覚むればすなわち身、たちまち長じて二丈余なり。
目が覚めてみると、突然体が大きくなっていて、身の丈二丈あまりになっていたのであった。
清代の一丈は3.2メートルであるから・・・、そんなはずあるか、という気になりますが、なったのでしょう。
それ以降、着るものは布を十八枚分使い、一食ごとに
啖一蒸羊。
一蒸羊をくらう。
羊をまるまる一匹蒸して平らげたのである。
これではまともな暮らしはできません。
体がでかくなるとともに強力となり、
用一鉄鞭重百六十斤。
一鉄鞭、重さ百六十斤なるを用う。
重量百六十斤の巨大な鉄のムチ型の武器を使いこなせるようになった。
一斤=600グラムですから、100キロ近い重さの鞭である。
これで直撃されれば如何なる重武装をした勇者や騎兵はもちろん、馬車や、あるいは城門さえ、砕かれた。
時に汾陽の知事は張方伯というひとであった。張は楊世栄の武名を知って軍人として召し抱えた。
やがて明末の混乱期に、張方伯は一方の軍を率いて反乱軍(流賊を含む)と戦ったが、楊もこの軍に従って各地を転戦し、
毎歩戦殺賊、賊皆披靡。
歩戦ごとに賊を殺し、賊みな披靡す。
白兵戦があるたびに反乱軍を大量に殺し、反乱軍はその姿を見ただけで恐れ逃げ出した。
この功績によって一方の部将にまで取り立てられたのである。
のであったが、
鼎革後、不知所終。
鼎革の後は、終わるところを知らず。
「鼎革」は国家の祭祀を行うための重宝である「鼎」が革められること、すなわち王朝が交代することをいいます。
明が滅び、清の代になると、どこかに身を隠してしまい、その行方は知られない。
のであった。
―――前王朝に忠義を尽くして新しい王朝に仕えなかったのである。その志は高く評価されねばならないであろう。
それにしても身の丈6メートル、というのは物理的にありえない。一体どうしてこんなデカイ体になれたのか・・・と疑問を持ったのであるが、この間の日曜日の朝、「仮面ラ●ダーなんとか」を見ていて、ついにその謎は解けた。
身の丈6メートル、というのは戦闘用のロボットだったのであろう。楊世栄は、眠っている間に改造されて、脳みそだけ巨●兵あるいは鉄●28号みたいなロボットに移されてしまったのではないか、と考えられます。というかそう考えざるを得ない。この一事から、すなわち十七世紀のシナの科学がたいへん進んでいたことがわかる。