平成21年 6月29日(月)  目次へ  昨日に戻る

 

清・王阮亭「池北偶談」巻二十より「啖石」

 

・・・わが家に雇われていた王嘉禄という男は変わり者で、口数も少なかった。

彼はまだ少年のころ、事情があって山中に一人で隠れ住んでいたのだが、そのような暮らしが数年になり、

遂絶煙火。

遂に煙火を絶す。

とうとう煮炊きすべき食料も尽きてしまった。

そこで、

惟啖石為飯、渇即飲渓澗中水。

ただ石をくらいて飯と為し、渇すれば即ち渓澗中の水を飲むのみ。

石を飯とし、のどが渇けば谷間の水を飲む、という食生活となった。

しばらくそういう生活をしていると、

遍身毛生寸許。

遍身に毛、寸ばかりを生ず。

体中に一寸ほどの長さの毛が生えた。

という状態になった。

その後、母が老いたと聞いたので家に帰り、普通に煮炊きした食事をするようになって、体中の毛は脱落してしまったのだという。

それでもわたくしの家に雇われて来ていたころも、

時時以石為飯。毎取一石、映日視之、即知其味甘鹹辛苦。

時々に石を以て飯と為す。一石を取るごとに、日に映じてこれを視、即ちその味の甘・鹹・辛・苦を知れり。

ときおり石をメシにして食っていた。また、石を一個取り上げるごとに、これを日の光にかざして見つめ、

「これは甘い」

とか

「これは塩からい」「ぴりりと辛い」「苦い」

などと見分けていた。

石が食べられるほどであるので、

以巨桶盛水掛歯上、盤旋如風。

巨桶を以て水を盛りて歯上に掛け、盤旋すること風の如し。

大きな桶に水をなみなみと入れて、これを歯で咥え、ぐるんぐるんと振り廻すことができ、その速さは風のようであった。

というぐらい歯が丈夫だったのであった。

後母終、不知所往。

後に母の終わるに、往くところを知らず。

その後母親が亡くなると、彼はどこかに行ってしまって、その行方は杳として知られない。

―――これはすばらしいので、みなさんも真似をするように。

 

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