令和2年7月26日(日)  目次へ  前回に戻る

多くのひとの意見を聞くのはいいことであるが、オロカモノの意見を聞くのはムダであることが多いのも確かである。

連休終わり。絶望的にやる気なし。強烈な逃走心が湧く(「闘争心」ではありません)。

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春秋か戦国のころのことですが、宋のくにに、

有酤酒者。

酒を酤る者有り。

造り酒屋がいた。

升概甚平、遇客甚謹、為酒甚美、懸幟甚高著。

升概(しょうがい)は甚だ平に、客を遇するは甚だ謹しみ、酒を為ること甚だ美にして、懸幟(けんし)も甚だ高著せり。

「升概」は「升目」のことです。「懸幟」は「のぼり」。看板だと思ってください。

升めはたいへん公平で誤魔化すことなし、お客の接遇はたいへんへり下り文句なし、造ったお酒はたいへん美味くて問題なし、店の看板もたいへん高く、目立つように掲げられていた。

ところが、

然不售、酒酸。

然るに售(う)れず、酒酸せり。

それなのに、売れない。酒が古くなってしまうばかりであった。

店主は首をひねって、

怪其故、問其所知長者楊倩。

その故を怪しみて、その知るところの長者・楊倩(よう・せん)に問う。

「原因は何であろうか」と、知り合いの億万長者・楊倩さまに訊いてみた。

楊倩さまは事情を聴いたあと、突然、質問した。

汝狗猛耶。

汝の狗、猛きや。

「ところで、おまえさんのところのイヌは、よく吠えるのではないか」

「え?イヌですか?

狗猛。

狗、猛し。

たしかに、うちのイヌはよく吠えます。

・・・しかし、イヌの話なんか、今しましたっけ。それに、

則酒何故而不售。

すなわち酒何ゆえにして售れざる。

だからといって、お酒が売れない理由になりますか」

「おまえさんの話を聞けば、経営戦略は完璧じゃ。それなのに売れないのは、

人畏焉。

人、畏るるなり。

ひとがコワがっているからであろう。

イヌか、イヌがいなければ近所の何か、であろうと思ったのじゃ」

試みに、

令童子懐銭挈壺甕而往酤。

童子をして銭を懐ろして壺甕を挈(たずさ)えて往きて酤わしむ。

童子に言いつけて、銭をふところに入れさせ、壺やカメを引っ提げて買いに行かせた。

「わかりまちた、あいあいさ―」

と童子は元気に出かけましたが、やがて

「うわーん」

と泣いて帰ってきた。

狗迓而齧之。

狗、迓(むか)えてこれを齧る。

「イヌが店の前でおいらに吠えかかってきて、噛まれてちまいまちたー!」

此酒所以酸而不售也。

これ、酒の酸にして售れざる所以(ゆえん)なり。

これが、お酒が古くなるまで売れない理由であったのです。

ああ。(ここから先は、遊説の士のコトバ)

夫国亦有狗。有道之士懐其術而欲以明万乗之主、大臣為猛狗、迎而囓之。

夫(それ)、国もまた狗有り。有道の士、その術を懐ろにして以て万乗の主を明らめんと欲するも、大臣猛狗為れば、迎えてこれを齧らん。

なんと、国にもまたイヌがおりますぞ。すぐれた人物が、その政策や技術を懐中にして一万台の戦車を保有する大国の君主に説明しようとしても、お側に仕える者たちが(やさしいイヌならよろしいが)気の荒いイヌでありましたが、店の前で出迎えて、そのひとに噛みついてしまうことでございましょう。

言論の閉ざされるときとはそういう時でございます。

みなさんの職場は如何ですか。

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「韓非子」巻十三「外儲説上」より。比較対象をさらに広げて、君主=主権者たる国民、大臣=言論を支配する者、店=テレビ・新聞だけではなく最近はインターネットも、と考えていただけると、みなさんの御思索に何かの足しになるかも知れません。「お酒」?「お酒」は、≒言いたいことをいうこと、ですかね。そんなの要らないか。

 

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