令和2年7月16日(木)  目次へ  前回に戻る

地面より下に出来たニンジンやダイコンは地下のモグのものでもぐ・・・とはいかず、地上の支配者に根こそぎ奪われることもある。

今日も居眠りしました。寝ている間はシアワセですね。

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春秋の時代、晋の国の大貴族・趙簡子さまは、家臣の尹鐸(いん・たく)を晋陽の代官に任命した。

尹鐸は言った、

以為繭絲乎、抑為保鄣乎。

以て繭絲と為さんか、そもそも保鄣と為さんか。

「晋陽の町を繭糸のようにしましょうか、それとも保鄣にいたしましょうか」

「はあ?」

ゲンダイの優れた文明の我々には何を言っているのかわかりませんね。しかし昔のひとにはわかったようで、

「繭糸」(けんし)は、繭の糸口を見つけて、そこから引き出して絹糸を巻き取ってしまうと繭の方は無くなります。そのように、富を剥ぎ取って収奪してしまいますか。それとも、「鄣」(しょう)は「とりで」の意で、「保鄣」すなわち何かあったとき立てこもれるような「根拠地」にしましょうか。

と訊ねたのです。

趙簡子は言った、

保鄣哉。

保鄣なり。

「立てこもれる砦にしてくれ」

「御意」

ところが尹鐸は、赴任後しばらくして、

損其戸数。

その戸数を損す。

晋陽の町の戸数が減ったと報告してきた。

その報告を聞いて、左右の者たちは

「いったい尹鐸はどういう方針で政治を行っとるのでしょうな」「戸数が減ったら税収が減ってしまいますぞ」

と批判したが、簡子はにんまりと笑って、息子の趙襄子に、

晋国有難而無以尹鐸為少、無以晋陽為遠。必以為帰。

晋国に難有れば、尹鐸を以て少(かろ)しと為す無く、晋陽を以て遠しと為す無かれ。必ず以て帰(き)と為せ。

「我が晋国に国難が起こったら、そのときにはあの尹鐸を重用するとよい。そのときには晋陽の町を遠いと思わず、必ず政府の避難先にするとよい」

と言ったそうです。

戸数が減るともちろん目先の総税収は減りますが、実際は一戸ごとの税額を減額して、人民に富と忠誠心を蓄積させようということだと、簡子は見抜いたのでありました。

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「国語」晋語九より。目先のことより将来のことを考える、というのは為政者として重要なことですね。為政者の人はよく学んでいただきたいなあ。一方、われらシモジモは人生本来無一物、何も持たずに生まれ、何も持たずに去っていくのじゃ。たとえ政府の収奪は免れても、やがて時が来れば「繭糸」のようにすべてを取り立てられて、この世に何も残らないことを忘れてはなりませんぞ。

 

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