令和2年5月10日(日)  目次へ  前回に戻る

あまりの名画に声も出ないようである。

どうやら岡本全勝さんに叱られてしまったようです。→http://zenshow.net/2020/05/10/読めそうもないほど本を買う/ 明日から平日なので、気を取り直してがんばりましょう。

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みなさん、明の大画家・十洲画人・仇英(1494〜1552)のことはご存知ですよね。

仇十洲工人物、其名雖婦孺皆知之。

仇十洲、人物に工(たく)みにして、その名は婦孺といえどもみなこれを知れり。

仇十洲は、人物を描くのが上手で、その名はおんな子どもでもみんな知っている。

と言われます(男女共同の理に反していますが)ので、もちろんすぐれたゲンダイの知識も持っているみなさんがご存知ないはずはありません。

彼の美人画は清冽なエロチシズムを発しているので、見てニヤニヤしてしまいそうになる・・・ひともいるかも知れません。

閑話休題。

清の終わりに近いころのことですが、

某骨董肆懸一幅仇十洲史湘雲春睡図。有賞鑑家甲乙二人、過而見之。

某骨董肆に一幅の仇十洲「史湘雲、春に睡るの図」を懸く。賞鑑家甲乙二人有り、過(よ)ぎりてこれを見たり。

「なんとか骨董品店」に、仇十洲作の「史湘雲、春のうたたねの図」というのが掛けられていた。絵画の鑑賞家を名乗る甲と乙が通りかかって、これを見た。

史湘雲は、乾隆年間に曹雪芹(乾隆二十七年(1763)四十余歳で没とみられる)らによって著わされた名著、いまもなお多くの読者を熱狂させる「紅楼夢」に出て来る代表的ヒロインたち「金陵十二叉」の一人、学問のできる美少女です。いまもこの絵が遺ってたら、きっとうっとりするようなすばらしい絵だったでしょうなあ。へへへ。

さて、この絵を見ながら、甲が言った。

此的是真迹、其用筆非十洲不為、且題字与図章無一不絶佳、而縑紙亦非近百年物。

此的(このもの)これ真迹なり、その用筆、十洲にあらざれば為せず、かつ題字と図章と一も絶佳ならざる無く、而して縑紙(けんし)また近百年の物にあらざらん。

「これはどうもホンモノだぞ。この筆遣い、仇十洲でなければできないだろう。それに、題字も、印鑑も、どれもこれもすばらしい。さらに、絹紙もどうみたって百年以上前のものだ」

「縑」(けん)は「かとりぎぬ」。非常に目の細かい絹で、絵画を描くのに適します。

乙が言った。

君言誠然。但布景散漫、余不能不疑。恐自高手摹本耳。

君が言まことに然り。ただ、布景散漫、余は疑わざるあたわず。おそらくおのずと高手の摹本ならんのみ。

「きみの言うこともわからんではない。だが、構図がよろしくないな。わたしは疑わないではいられないね。恐らく、よほど上手いやつの写本だろう」

うーん。実物を観てみないとわかりませんね(観たってわからないような気がしますけど)。

二人津津致弁。

二人津津として弁を致す。

二人は、唾を飛ばしあって議論していた。

すると、

背後一人大言曰、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇。

背後の一人、大言して曰く、〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇。

二人の背後から、おっさんが大きな声で言った、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」と。

なるほど。

言罷悠然而去。二人面赤不能作一語。

言罷りて悠然として去る。二人面赤くして一語を作すあたわざりき。

言い終わると、そいつは悠然として去って行った。甲乙の二人は赤面したまま一言もしゃべることができないでいた。

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清・孫静安「棲霞閣野乗」より。さて、背後のおっさんはなんと言ったんでしょうか? そして、この絵は結局、仇十洲の真作なのか、そうではないのか。みなさんは優れた人類であるゲンダイ人だし、自ら認め他人も目の前では否定しないレベルの賢者だし、もうわかりにわかりきっていることだと思いますが・・・! 答えは→こちら

 

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