寒いのでイヤだが、生きる意義となっている小豆洗いに来てみたところ、シリコダマを求めて凍り付いているカッパを見て、妖怪道の厳しさを知るアズキアライくんである。
現世離脱しているので、今日も明日も出勤するということなどは妄想である。莫妄想!
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普段はこんないいことは教えてあげないんです(教えてくれと言われたことがないので)。しかしいよいよ俗世を離れた身、教えてあげようかなー。
時々一人でにやにやしているので、
「そこ、何をにやにやしているの!!!」「もっと緊張感を持て!」
と怒られたりしますが、「いや、なんでもござらんよ」と言いながらまたにやにやしたりしているのは、こんなコトバを思い出して、にやにやしているんです。
(先生)居象山多告学者云、女耳自聡、目自明、事父自能孝、事兄自能弟、本無欠闕、不必他求。在自立而已。
先生、象山に居りて多く学者に告げて云う、「女(なんじ)耳自ずから聡く、目自ずから明るく、父に事(つか)えて自ずからよく孝、兄に事えて自ずからよく弟(てい)、本より欠闕無く、他求を必ずしもせず。自立に在るのみ」と。
先生は、象山の学舎においていつも学ばんとして学んでいる者(←「学者」とは本来こういう意味なんです)たちにおっしゃっていた。
「おまえたちは、耳はちゃんと聞こえるではないか。目はちゃんと見えるではないか。おやじさんに対してはちゃんと孝行しているじゃろう。アニキに対してはちゃんと敬愛しているじゃろう。もともと何も欠けていないではないか。あとは自分でやっていくだけだぞ」
いいですねー。
―――でも、おまえさんたちにはなかなかこのことがわからないのだ。なぜなら、知恵がついてしまっているからじゃ。
生於末世、故与学者言費許多気力。蓋為他有許多病痛。若在上世、只是与他説、入則孝、出則弟、初無許多事。
末世に生ず、故に学者と言うに許多(あまた)の気力を費やす。けだし、他(かれ)に許多の病痛多く有るがためなり。もし上世に在りては、ただこれ他と説くに、「入りてはすなわち孝、出でてはすなわち弟」のみ、初めには許多の事無し。
「現代(12世紀)に生まれたので、おまえたち学ぶ者と話をするのに、いろんなことを考えなくてはならなくてたいへんである。なぜなら、おまえたちが多くの点で「病んでいる」からなあ。もしも古代であったら、おまえたちにはただ「論語」にあるとおり「一族の中では祖先を敬う孝の道、地域社会の中では年長者を敬う悌の道」と言っておけばいいだけだったのになあ。根本には複雑な問題などないのだ」
ああ、現代に生まれなければよかったなあ。複雑なことを勉強する、というか勉強していることにしておかないといけないからなあ。
―――なんでそんなことを勉強しておるのじゃ!
千虚不博一実、吾平生学問無他、只是一実。
千虚一実を博めず、吾が平生の学問は他無し、ただこれ一実のみ。
「千のどうでもいいことを知っていても、たった一つの「本当」がわかるわけではない。わしの日々の学問は、他のことではなく、たった一つの「本当」そのものなんじゃ」
誤解ないように言っておきますが、先生の学問は「一実」を「求めて」いるのではなく、「一実」そのものが先生の学問なんです。
―――そのとおり。なぜなら「一実」は求めなくても、わしも、おまえたちも、はじめっから持っているのだから。
或問先生何不著書、対曰、六経註我、我註六経。
あるひと先生に問う、何ぞ著書せざるかと。対して曰く、「六経我を註し、我六経を註せり」と。
あるひとが先生に訊ねた。「先生はどうして、(例えば友人にして論敵の朱晦庵のように)書物を著そうとされないのですか」
答えておっしゃった、「(詩・書・礼・楽・易・春秋の)六つの経典はわしら人間を説明してくれているのだ。わしらは生きることで、六つの経典を説明するしかないではないか」と。
わーい、あまりにも有名なコトバを引用してしまいましたので、「先生」が誰かネタバレですね。
なおこのコトバ、前半の「六経、我を註す」がよく引用されますが、「我、六経を註す」も引っ付いていてセットなんで、行動への責任を求めてきている点、留意が必要です。
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「陸九淵集」巻三十四「象山語録」上より。南宋の儒者・象山先生・陸九淵のおコトバでした。
すばらしい。象山先生の思想的後継とよくいわれる三世紀後の王陽明先生が、その赫赫たる武勲とともに、幾分か神聖化されてしまっているの比して、象山先生のコトバは大地主で大商人で薬屋であった陸家の一員として民間での経営に携わっていた健康な社会人のおっさんのコトバなので、直立不動せずに読めるのである。
「陸象山の語録だと・・・、それならば深刻な顔で読むはずで、にやにやしているはずがないからダメだ!」「あなたたちにはやる気がないからダメなの!」
と怒号が聞こえるので、今日もにやにやするだけで、これ以上教えてあげるのはやめておきますよ。