令和元年9月17日(火)  目次へ  前回に戻る

おそろしい魔女や魔物たちのカードゲームを作ったぜ。

今日は暑かった。背筋がぞくぞくっとなるような怖ろしい話をいたしましょう。ひっひっひ。

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これはわたしの姉の旦那である周鳴若が自ら経験した事件である(から本当のことなのだ)。

・・・乾隆乙酉年(1765)の夏のこと、友人の銭塘の陸飛が山寺の一室を借りて読書(試験勉強のことです)していた。

そこで、わし(周鳴若)は

往訪之、値月夜、同登山亭玩月。

往きてこれを訪(おとな)うに、月夜に値(あ)い、山亭に同登して月を玩(もてあそ)べり。

そいつのところを訪問しに行ったんだが、その晩は月のきれいな夜であったから、そいつと一緒に寺の向かいにあるあずまやに登って、月見としゃれこんでみた。

いい加減夜も更けてきて、そろそろ寝ようかというころ、ふと寺門の外に目をやったところ、

見山下一老人彳亍上山。

山下の一老人の彳亍(てきちょく)として山に上りくるを見る。

山の麓の方から、一人の老人が、ふらりふらりと寺の方に昇ってくるのが見えた。

「彳亍」は「彳」(てき)と「亍」(ちょく)の二文字で、「ふらふら(歩く)」。

月の明るい夜だからよく見えたのである。

「見ろ、こんな夜中にじじいが一人で登ってくるぞ」

「おおかた月見の酒にでもほろ酔いでは・・・」

漸近亭、月光朗照、乃白毛僵尸。

漸く亭に近づき、月光の朗照するに、すなわち白毛の僵尸(きょうし)なり。

だんだんとあずまやの方に近づいてきたのだが、明るい月光に照らされてよくよく見るに、真っ白な髪の毛の硬直した死体である!

「僵尸」(きょうし)は硬直した死体、すなわち「キョンシー」です。チャイナでは死体をすぐ火葬したり埋葬したりせず、葬地が決まるまでモガリの状態で安置しておくので、硬直した死体が妖怪化して生きているひとを襲うことがままあるのである。

「あのじじい、硬直死体(キョンシー)だ!!!!」

急共奔避入寺、鳴鐘鼓、集衆僧。

急ぎて共に奔(はし)り避けて寺に入り、鐘鼓を鳴らして衆僧を集む。

大急ぎで逃げ出して寺に走り込み、鐘や太鼓を鳴らして僧侶たちを集めた。

「なんですかな、むにゃむにゃ」

「たいへんだ、硬直死体(キョンシー)がこの寺に来るぞ」

「なんですと!」

みんなで

堵禦山門、僵尸雖猛力推撞、門堅不能進。

山門を堵(まも)り禦(ふせ)ぐに、僵尸猛力にして推撞するといえども、門堅くして進むあたわず。

山門を内側から押えて侵入を防いだ。硬直死体はすごい力で扉を押したり叩いたりしたが、門扉が堅く、突破できないようであった。

やがて、

コケコッコー!

鶏鳴而去。

鶏鳴にして去る。

一番どりが鳴くと、それまで押したり叩いたりしていたのが、うそのように止み、

がしゃ、がしゃ。

と不規則な足音をさせながら、門の外の何ものかは去って行った・・・ようである。

それでもみんなコワくて、日が昇りきるまで門扉を押えていた。

次日見門栨指痕深入寸許。

次日、門の栨(せつ)を見るに、指痕深く入ること寸許(ばか)りなり。

朝になって門の横木を見てみたところ、指のあとが一寸ばかりも深く入り込んでいた。

妖怪の力のすさまじさがわかったのである。

ところでこの年の秋、陸飛は見事に地方試験をトップで合格した。

そこで、

僵尸竟不畏解元。

僵尸ついに解元を畏れず。

硬直死体の妖怪は、地方試験のトップになるほど徳や威勢の盛んな人であっても、決して怖れたりはしないのだ、ということがわかったのである。

ああコワいなあ。ニンゲンと違ってエライひとにも歯向かうというのだ。

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清・朱海「妄妄録」巻九より。え? あんまりこわくない? むむむ・・・、明日は涼しくなるそうで、今日も日が暮れると涼しくなってきたから、これぐらいのやつでカンベンしてやるが、来年の夏までにはもっとコワいのを仕込んでくるので、待っているがいいぜ!

 

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