勇壮なる現役時代のぶたとのの姿だ。その指示どおりにしていれば滅びるのは確かであろう。
国を過つというのがどういうことか、勉強になりますね。もちろん我が国のことではありません。
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現代的には↓の「君」を「社長さん」「上司」「株主」「主権者たる民衆」ぐらいに読み替えるとわかりやすいのでしょうが、
@ 従命而利君、謂之順。
命に従いて君を利す、これを順と謂う。
命令どおりにして、それによって主君に利益を与える。これは「順(したが)う」という行為である。
A 従命而不利君、謂之諂。
命に従いて君を利せざる、これを諂と謂う。
命令どおりにして、それによって主君に損害を与える。これは「諂(へつら)う」という行為である。
これをポピュリズムというのであろう。
B 逆命而利君、謂之忠。
命に逆らいて君を利す、これを忠と謂う。
命令に従わず、それによって主君に利益を与える。これは「忠(まごころをつく)す」という行為である。
「忠」の訓じ方に少し無理があるカモですが、これが「逆命利君」というコトバの出所です。
C 逆命而不利君、謂之簒。
命に逆らいて君を利せざる、これを簒という。
命令に従わず、それによって主君に損害を与える、これは「簒(うば)う」という行為である。
さて、このうち@とCは、「主君の命令」どおりにやれば「主君の利益」になる場合ですが、AとBについては「主君の命令」が「主君の利益」にならないという状況になっています。このとき、
不恤君之栄辱、不恤国之臧否、偸合苟容、以持禄養交而已耳、謂之国賊。
君の栄辱を恤(うれ)えず、国の臧否を恤えず、合を偸(ぬす)み苟(かりそ)めに容(い)れ、以て禄を持し交わりを養うのみなる、これを「国賊」と謂う。
主君が栄えるか名誉を失うのかということも考えず、国家にとってよいことかどうかも弁えず、主君と不当に同意し、いい加減にその意を迎え、それによって給料をもらい続け仲間を増やす―――こんなやつを「国賊」というのだ。
君有過謀過事、将危国家、殞社稷懼也。
君に過謀過事有るは、まさに国家を危うくし、社稷を殞(そこな)わんとするの懼れあるなり。
主君にあやまった謀略、あやまった事業があると、国家を危険にし、(国家の基礎である)土地と産業(とその基礎となる人民)を損なってしまう恐れが出てくる。
「社稷」の「社」は土地の神、「稷」は農業の神さまで、これらを祀ってまとまる社会の一単位が(春秋時代までの都市)国家そのものと解されていました。
そのような懼れのあるときは、
大臣父兄有能進言於君、用則可、不用則去。謂之諫。
大臣父兄、よく君に言を進むること有りて、用いらるればすなわち可(よ)し、用いられざればすなわち去る。これを「諫」という。
高位の臣下や主君の叔父・兄弟にあたる地位にある者は、主君に進言をする。その言葉が聞かれ活用されるなら、それでよし。活用されないなら、その主君のもとを去る。これが「諫める」という行為である。
有能進言於君、用則可、不用則死。謂之争。
よく君に言を進むること有りて、用いらるればすなわち可し、用いられざればすなわち死す。これを「争」という。
何やらキナ臭くなってまいりました。(なおこの「キナ」は火薬のことだそうです。)
主君に進言をする。その言葉が聞かれ活用されるなら、それでよし。活用されないなら、自殺(して反省を主張)する。これが「争う」という行為である。
有能比知同力、率群臣百吏、而相与彊君、撟君、君雖不安不能不聴、遂以解国之大患、除国之大害、成尊君安国、謂之輔。
よく知を比し力を同じうする有りて、群臣百吏を率いてあいともに君に彊(し)い、君を撟(たわ)め、君、安んぜずといえども聴かざるあたわず、遂に以て国の大患を解き、国の大害を除き、君を尊び国を安んず、これを「輔」という。
知恵を並べあい、力を合わせて、多くの臣下や官吏を率い、みんなで主君に強制して主君を矯正し、主君にも不満はあるとしても臣下の意見を聞かざるを得なくさせ、最終的に国の大きな心配事を解消し、国の大きな害悪を除いて、主君を尊敬される立場に保ち、国を安定させる。これが「輔(たす)ける」という行為である。
ほとんど「押し込め」です。さらに進んで、
有能抗君之命、竊君之重、反君之事、以安国之危、除君之辱、功伐足以成国之大利、謂之払。
「払」は「弼」(ひつ)の代わりに使われています。
よく君の命に抗い、君の重きを竊み、君の事に反し、以て国の危を安んじ、君の辱を除き、功伐以て国の大利を成すに足る、これを「弼」と謂う。
主君の命令に反対し、主君の権限を竊行し、主君の事業を引っくり返して、それらによって国の危機を安定させ、主君の恥辱を除き、それらの功績は国の根本の利益を成就させると言い得る。これが「弼(すくいたす)ける」という行為である。
主君の言うとおりにしたらあかん、というときにはこの「諫める」「争う」「輔ける」「弼ける」をしなければなりません。「諫争輔弼」(かんそうほひつ)です。覚えましたか。なおこの「輔弼」が、「大日本国憲法」の「輔弼」大臣という概念の元になっています。典拠どおりなら、明治天皇の大権を簒うこともあるというたいへんな権限なんです。
それでは明日は「諫争輔弼」の歴史実例についてご説明しましょう。
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「荀子」臣道篇十三より。やっぱり「逆命利君」はたいへんですね。「国賊」の方が楽チンなのは確かかも。