「どうもここはネコの町なんじゃないかと踏んでいるんですが、どう思います?」と新聞記者が嗅ぎつけてきたようだが、滅多なことを話すことはできない。高楼には何が潜んでいるかわからないのだ。
東京のサクラも散り始めたようです。この季節、夜中にサクラの散るのを見ていると、なにものかに憑りつかれる・・・ことももしかしたらあるカモ。
・・・・・・・・・・・・・・
明のころ、浙江・呉の九里橋のたもとに、華氏の屋敷がありましたんじゃ。
その屋敷には二階建ての楼閣があったが、ずいぶん前から使われなくなって、錠が鎖されたままになっておりました。
ある年の大晦日の夜、
忽聞楼上有鼓吹声、異之、家人于牆隙中偸窺。
忽ち楼上に鼓吹の声有るを聞き、これを異として、家人、牆の隙中より偸窺す。
突然、楼閣の二階で太鼓や笛の音が聞こえ始めたので、「いったい何ごとだ」と華家のひとたちは楼閣の外から隙間を探して盗み見した。
すると、楼閣の中で、
有小人数百、長不盈尺、若嫁娶状。
小人数百、長尺に盈ちざるが、嫁娶せんとするごとき状有り。
数百人の、背の高さ30センチも無いぐらいの小人たちが、嫁取りの儀式を行っていたのだ。
そして、どこからともなく、
明日嘉例、当更盛也。
明日の嘉例、さらに盛んなるべし。
「明日の披露宴は、もっと盛り上がるぞ」
という声が聞こえた・・・。
・・・というのであるが、華家の主人はそんな報告を聞いても信じられなかったが、家人らがみな口をそろえて言うので、本当かどうか自分の目で確かめることにした。
翌日は新年のめでたい日であったが、その宴席もそこそこに切り上げて、夕刻、楼閣の側に行ってみると、やはり二階から笛太鼓の音が聞こえ出し、やがて数十人の小人が輿をかついで、壁の隙間から出てきた。
主人大駭。
主人大いに駭く。
主人はたいへん驚いた。
その輿は一方の小人たちによって出迎えられ、そこから花嫁が降りてきて、夫家の親族に挨拶をはじめたのだ――――。
華家では
自是毎夜于隙間探之、不半月、生子矣。
これより毎夜、隙間よりこれを探るに、半月ならずして子を生ず。
この日から毎晩、楼閣の隙間からみなで覗き見して観察を続けたのであるが、半月もしないうちに、楼閣の中で子どもが生まれた様子である。
その後、数日すると塾が開かれ、そこでは
授以中庸章句、歴歴如人間。
授くるに「中庸章句」を以てし、歴歴として人間(じんかん)の如し。
朱子の編纂した「中庸章句」が教授され、どうみても人間世界と同じことをしているのであった。
「いったい、これは何なのだ?」
と、華家の者たちは、寝ぼけ眼を擦りながらウワサしあっていた。毎晩観察しているのでみんな睡眠不足になっていたのだ。
そんなある日、見も知らぬ道士が華家の屋敷の前を通りすがりに立ち寄って、
君家有妖気、当為駆除之。但須以犠牲穀食酬神、始能去也。
君が家に妖気あり、まさにこれが駆除を為すべし。ただ、犠牲穀食を以て神に酬うを須(ま)ちて始めてよく去るなり。
「あなたの家にはどうもあやかしの気が立ちこめておる。これを駆除して差し上げることができると思うが、ただし関係する神々に、肉料理や米麦の料理をお捧げして、はじめて妖気を去らせることが出来るものなのじゃ。よろしいかな?」
と告げた。
「ぜひお願いします」
主人はもちろん、強く依頼したのであった。
その晩、道士は楼閣の前で、剣を使って作法通りにお祀りをしはじめた。主人らはその横に座って畏まって、様子を見ていたのであるが、
少頃、空中擲小人数十、道人飛剣叱之、須臾皆死。
少頃、空中に小人数十を擲ち、道人剣を飛ばしてこれを叱するに、須臾にして皆死せり。
しばらくすると、空中から数十人の小人が落ちてきた。道士は手にしていた剣を投げつけて、まじないのコトバを発すると、これらの小人たちはたちまち死んでしまった。
盛以竹篋、幾盈石許。
盛るに竹篋を以てするに、ほとんど石に盈つるばかりなり。
竹かごにこの死体を入れると、一石(18リットル)近くのかごがいっぱいになるほどであった。
儀式を終えると、
道人曰、我遠来不敢言労、惟驚擾諸神、酬之宜速也。
道人曰く、我遠来なればあえて労を言わず、ただ諸神を驚擾す、これに酬いること速やかなるべし、と。
道士さまはおっしゃった。
「わしは遠くから来た旅の者だから、特に何かをしたなどと言う気はないが、ただ関係する神々を騒がせてしまった。料理類のご提供を速やかに行ってくだされよ」
言訖而去。
言訖(おわ)りて去る。
それだけ言って、旅立って行った。
「ありがとうございます」
とお見送りをした後で、
主人自念。
主人自ら念(おも)う。
主人はひとりになってつらつら考えた。
除妖、正也。因妖而索食、是亦妖也。
妖を除くは正なり。妖に因りて食を索(もと)むるは、これまた妖ならん。
「妖かしのものを駆除するのは正義の行為だよな。妖かしのものを駆除したら食べ物を求める神々というのは、・・・やはりおかしい。それも別の妖かしのものかも知れんぞ」
と考えまして、
遂不酬神。
遂に神に酬いず。
結局、「料理なんか捧げなくてもいいだろう」と神々へのお供えをしなかった。
のである・・・。
さて、どうなるでしょうか。明日のお楽しみ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「履園叢話」十六「華氏精怪」より。・・・と、ここまで書いたところで、常識人の方がお見えになりまして、
「おいおい、肝冷斎よ、君は洞穴の中で暮らしているから知らんのかも知れんが、テレビドラマやソーシャルゲームもある世の中なんだぞ。君のHPなんか楽しみにしているひとは、いないんだよ。はっきり言ったら傷つくかも知れないがなあ」
と教えてくれたのです。
がびーん!!
わしの書いていることを楽しみにしている人がいなかったとは!
傷ついたので、明日には続かないかも知れませんぞー。