平成31年4月6日(土)  目次へ  前回に戻る

「どうもここはネコの町なんじゃないかと踏んでいるんですが、どう思います?」と新聞記者が嗅ぎつけてきたようだが、滅多なことを話すことはできない。高楼には何が潜んでいるかわからないのだ。

東京のサクラも散り始めたようです。この季節、夜中にサクラの散るのを見ていると、なにものかに憑りつかれる・・・ことももしかしたらあるカモ。

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明のころ、浙江・呉の九里橋のたもとに、華氏の屋敷がありましたんじゃ。

その屋敷には二階建ての楼閣があったが、ずいぶん前から使われなくなって、錠が鎖されたままになっておりました。

ある年の大晦日の夜、

忽聞楼上有鼓吹声、異之、家人于牆隙中偸窺。

忽ち楼上に鼓吹の声有るを聞き、これを異として、家人、牆の隙中より偸窺す。

突然、楼閣の二階で太鼓や笛の音が聞こえ始めたので、「いったい何ごとだ」と華家のひとたちは楼閣の外から隙間を探して盗み見した。

すると、楼閣の中で、

有小人数百、長不盈尺、若嫁娶状。

小人数百、長尺に盈ちざるが、嫁娶せんとするごとき状有り。

数百人の、背の高さ30センチも無いぐらいの小人たちが、嫁取りの儀式を行っていたのだ。

そして、どこからともなく、

明日嘉例、当更盛也。

明日の嘉例、さらに盛んなるべし。

「明日の披露宴は、もっと盛り上がるぞ」

という声が聞こえた・・・。

・・・というのであるが、華家の主人はそんな報告を聞いても信じられなかったが、家人らがみな口をそろえて言うので、本当かどうか自分の目で確かめることにした。

翌日は新年のめでたい日であったが、その宴席もそこそこに切り上げて、夕刻、楼閣の側に行ってみると、やはり二階から笛太鼓の音が聞こえ出し、やがて数十人の小人が輿をかついで、壁の隙間から出てきた。

主人大駭。

主人大いに駭く。

主人はたいへん驚いた。

その輿は一方の小人たちによって出迎えられ、そこから花嫁が降りてきて、夫家の親族に挨拶をはじめたのだ――――。

華家では

自是毎夜于隙間探之、不半月、生子矣。

これより毎夜、隙間よりこれを探るに、半月ならずして子を生ず。

この日から毎晩、楼閣の隙間からみなで覗き見して観察を続けたのであるが、半月もしないうちに、楼閣の中で子どもが生まれた様子である。

その後、数日すると塾が開かれ、そこでは

授以中庸章句、歴歴如人間。

授くるに「中庸章句」を以てし、歴歴として人間(じんかん)の如し。

朱子の編纂した「中庸章句」が教授され、どうみても人間世界と同じことをしているのであった。

「いったい、これは何なのだ?」

と、華家の者たちは、寝ぼけ眼を擦りながらウワサしあっていた。毎晩観察しているのでみんな睡眠不足になっていたのだ。

そんなある日、見も知らぬ道士が華家の屋敷の前を通りすがりに立ち寄って、

君家有妖気、当為駆除之。但須以犠牲穀食酬神、始能去也。

君が家に妖気あり、まさにこれが駆除を為すべし。ただ、犠牲穀食を以て神に酬うを須(ま)ちて始めてよく去るなり。

「あなたの家にはどうもあやかしの気が立ちこめておる。これを駆除して差し上げることができると思うが、ただし関係する神々に、肉料理や米麦の料理をお捧げして、はじめて妖気を去らせることが出来るものなのじゃ。よろしいかな?」

と告げた。

「ぜひお願いします」

主人はもちろん、強く依頼したのであった。

その晩、道士は楼閣の前で、剣を使って作法通りにお祀りをしはじめた。主人らはその横に座って畏まって、様子を見ていたのであるが、

少頃、空中擲小人数十、道人飛剣叱之、須臾皆死。

少頃、空中に小人数十を擲ち、道人剣を飛ばしてこれを叱するに、須臾にして皆死せり。

しばらくすると、空中から数十人の小人が落ちてきた。道士は手にしていた剣を投げつけて、まじないのコトバを発すると、これらの小人たちはたちまち死んでしまった。

盛以竹篋、幾盈石許。

盛るに竹篋を以てするに、ほとんど石に盈つるばかりなり。

竹かごにこの死体を入れると、一石(18リットル)近くのかごがいっぱいになるほどであった。

儀式を終えると、

道人曰、我遠来不敢言労、惟驚擾諸神、酬之宜速也。

道人曰く、我遠来なればあえて労を言わず、ただ諸神を驚擾す、これに酬いること速やかなるべし、と。

道士さまはおっしゃった。

「わしは遠くから来た旅の者だから、特に何かをしたなどと言う気はないが、ただ関係する神々を騒がせてしまった。料理類のご提供を速やかに行ってくだされよ」

言訖而去。

言訖(おわ)りて去る。

それだけ言って、旅立って行った。

「ありがとうございます」

とお見送りをした後で、

主人自念。

主人自ら念(おも)う。

主人はひとりになってつらつら考えた。

除妖、正也。因妖而索食、是亦妖也。

妖を除くは正なり。妖に因りて食を索(もと)むるは、これまた妖ならん。

「妖かしのものを駆除するのは正義の行為だよな。妖かしのものを駆除したら食べ物を求める神々というのは、・・・やはりおかしい。それも別の妖かしのものかも知れんぞ」

と考えまして、

遂不酬神。

遂に神に酬いず。

結局、「料理なんか捧げなくてもいいだろう」と神々へのお供えをしなかった。

のである・・・。

さて、どうなるでしょうか。明日のお楽しみ。

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「履園叢話」十六「華氏精怪」より。・・・と、ここまで書いたところで、常識人の方がお見えになりまして、

「おいおい、肝冷斎よ、君は洞穴の中で暮らしているから知らんのかも知れんが、テレビドラマやソーシャルゲームもある世の中なんだぞ。君のHPなんか楽しみにしているひとは、いないんだよ。はっきり言ったら傷つくかも知れないがなあ」

と教えてくれたのです。

がびーん!!

わしの書いていることを楽しみにしている人がいなかったとは!

傷ついたので、明日には続かないかも知れませんぞー。

 

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