(お、カッパでもんき。ハナミズをずいぶん大事そうにしているな。貴重なモノのようだぞ。ようし、あのハナミズを盗み取ってやろうでもんき)と、カッパのハナミズを狙うサルであった。
連休中なので心がのびやかです。今日はみなちゃんの好きなドウブツものだ。悪いおサルさんのお話だよー。
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清の時代のことです。
天目山にはサルが多く、なかなかサル知恵の働くやつらなので、山を行くひとびとは多く困らされていた。
あるひと、
販蕉扇経其地、手持一扇、且行且揺。
蕉扇を販(ひさ)がんとしてその地を経るに、手に一扇を持ち、かつ行きかつ揺らす。
芭蕉で作った扇を売りに行こうとしてその山中を通りかかったのですが、手に売り物の扇を一本持ち、歩きながら扇いでいた。
すると、
群猴聚至、攫所販立尽、而各傚客之所爲、客揺亦揺、客止亦止。
群猴聚まり至り、販ぐところを攫(さら)いてたちどころに尽くし、而しておのおの客の為すところに傚(なら)いて、客揺らせばまた揺らし、客止むればまた止む。
サルどもがきいきいと集まって来て、売り物をあっという間に全部盗み取って、みんな、その旅人のすることを真似したのです。旅人が扇を扇ぐとサルどもも扇ぎ、旅人が止めるとサルどもも止めるのでした。
「むむむむ・・・」
商売用品を奪われた上にからかわれたのです。このひと、たいへん怒って、仕返しをしようと考え、次にまたこの山を通ることになったとき、
多覓剃刀、肩担至其地。
多く剃刀を覓(もと)め、肩に担ぎてその地に至る。
今回はたくさんのカミソリを買い求めて、これを肩に担いでその山に差し掛かったのです。
(さて・・・)
そのひと、荷物を下ろして周りを見回す。
(しめしめ。集まってきたぞ・・・)
視猴且至、取刀作自剄状、委之而去。
猴のまさに至らんとするを視て、刀を取りて自ら剄する状を作し、これを委ねて去れり。
「剄」(けい)は「くびをきる」。
サルどもが集まってきたのを見て取ると、カミソリを一本出して、自分の首を斬る真似をして、それから荷物をすべて置いて立ち去ったのです。
「きいきい」
群猴取而傚者、多斃焉。
群猴取りて傚る者、多く斃れたり。
サルどもはその荷物(カミソリ)を取り出し、旅人の真似をして首に当てて斬ったので、多くのサルが死んだのでした。
わーい、悪いサルをやっつけました。よかったなあ。
このサルどもは、ほかにもいろいろ悪さをするので、
土人択其出入之所、就山石鑿小竅。内寛外窄、僅可容手。
土人その出入の所を択び、山石に就きて小竅を鑿つ。内寛にして外窄(すぼ)まり、僅かに手を容るるべきのみ。
地元民たちはサルどもの通り道を選んで、そのあたりの岩に小さな穴をうがちましたのじゃ。この穴は、中の方は少し広くて、外はすぼまっており、ちょうど手を入れられるだけの大きさになっておりました。
そうして、
取木爲弾丸、丹漆其外、放穴中、潜伺之。
木を取りて弾丸と為し、その外を丹漆して、穴中に放ち、潜みてこれを伺う。
木を磨いて丸い球をつくり、それに赤いウルシを塗りつけてぴかぴかにし、ぞれを穴の中に入れて隠れて見張っておりました。
「きいきい」
猴見丸、探手入攫、人即鳴鑼驚之。
猴、丸を見て、手を探りて入れ攫うに、人即ち鑼を鳴らしてこれを驚かす。
サルはその球を穴の外から見て、何やら宝物だと思い、手を穴に探りいれて摑んだところで、見張っていたひとはドラを鳴らしてサルを驚かせた。
じゃーんじゃーんじゃーん・・・
「うきー」
びっくりしたサルは大慌てで逃げようとしますが、その穴は、
其手虚入、而不能実出。
その手、虚にして入るも実にして出だすあたわず。
その手が何も持っていないときは入ったのですが、何かを持っていると抜き取ることができない。
というように作られています。サルは手に握った球を放そうとしませんので、慌てふためいたまま、
遂被縛。
遂に縛せらる。
とうとう捕まってしまった。
そしてもちろん、コドモたちには見せられないような、ムゴい方法でコロされたんです。
ああ。サルよ。
貪而忘身。雖黠何爲。
貪りて身を忘る。黠(さと)しといえどもいかんせん。
物欲しさのために自分の体を犠牲にしてしまったのだ。知恵がある、といってもどうしようもなかったのだ。
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清・湯用中「翼駉稗編」巻六より。みなさんは知恵があるからこのサルみたいなことはしてませんよねー。