平成30年8月5日(日)  目次へ  前回に戻る

これはマズイ。外見からはわからないが、どうやらぶたとのは熱中症のようである。あまりにも動きが鈍くなっているのだ。

今日の暑さはもうダメだ。明日からカネ儲けしようと思っていたが、もうガマンできないので、冷涼と思われる山中に入ります。会社にはデクを行かせておきます。わははは。まあ、あと数日で立秋だから涼しくなりますので、みなさんあっという間に暑さなんか忘れてしまうと思いますけどね。

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清の時代のことです。

揚州城府の徐凝門の外に住んでいた王彬は、もと極貧で、竹のカゴや箱を作って売り歩いていたのだが、あるときふと思いついて、

検拾字紙、於三六九日向二郎廟惜字局秤売、斤値五文。

字紙を検拾して、三・六・九日に二郎廟の惜字局に向かい、秤売するに、斤五文に値いす。

文字の書いてある紙を選んで拾い、これを毎旬三・六・九の日に開かれる二郎神を祀る揚州城内の廟の前の市で、文字の書いてある紙を引き取る店があったので、ここに売りに行った。一斤(600グラムぐらい)で五文のカネになった。

利益は少ないが、何しろ元手はゼロなので案外儲かり、そうこうしているうちに、

家漸温飽。

家ようやく温飽せり。

彼の家はだんだんと豊かになって、暖かい衣服も着られ、腹いっぱいのメシも喰えるようになった。

「文字には神さまが宿っているというから、それを大切にしたおかげかもしれんねえ」

と女房は言ったが、王彬は笑って相手にしなかった。

その後、また考えて、

将字紙滌去墨跡、售各紙局更造、獲利較豊。

字紙を将(ひ)いて墨跡を滌去し、各紙局に售(う)りて更造せしむるに、獲利、較ぶるに豊かなり。

文字の書かれた紙を持ってきて墨を洗い流してしまい、白い紙にして紙屋に持ち込んで、再生紙の原料に売ってみたところ、儲けは以前よりも多くなった。

「如何にカネのためとはいえ、文字を消してしまうなんて・・・」

と女房は文句を言ったが、王彬は笑って相手にしなかった。

そんなある日、王彬は

方燃燈細検、燈倒紙著、彬焚死、余屋悉燬。

まさに燃燈して細検するに、燈紙に倒れ著き、彬焚死し、余屋ことごとく燬けおちたり。

ちょうど、灯りをつけて細かく文字が残っていないかチェックしていたとき、灯りが倒れて紙に火が燃え移り、王彬は焼け死んでしまったし、その家はみな焼失してしまったのであった。

わーい、これは偶然ではありませんよ。文字を大切にしなかったからです。神さまが怒ったんです。

その証拠に、別にこんな事件もあったんです。

溧陽県の富豪の家で息子にヨメをもらった。このヨメも他の村の富豪の娘で、嫁入りの道具も豊富だったし、ヨメの人柄も善く、

過門未旬日、一家皆称其賢。

過門していまだ旬日ならざるに、一家みなその賢を称せり。

ヨメ入りしてきてまだ十日も過ぎないのに、家中、「このヨメさんはよく出来たひとだよ」と誉めそやさない者は無かった。

ところが、そのヨメが

一日、爲暴雷震死。

一日、暴雷のために震死せり。

ある日、突然カミナリが落ちて、打たれて死んでしまったのだ。

「あんないい人がどうして」「カミナリさまの人違いでは・・・」

とみな納得できないでいたところ、やがて再び、

雷声隠隠、乃繞臥房、忽霹靂一声、将箱籠撃砕。

雷声隠隠(いんいん)として、すなわち臥房を繞り、忽ち霹靂一声、箱籠を将いて撃砕せり。

カミナリの音がごろごろとしはじめ、ヨメさんの住んでいた寝室の周りをめぐり始めた。そして、突然にどかんと落雷の音がして、覗いて見ると、ヨメさんの遺品であるハコが一つ、カミナリに打たれてバラバラになっていた。

「なんと」

検視則鞋底皆字紙鋪襯也。

検視するに、すなわち、鞋底みな字紙にて鋪襯せるなり。

みんな集まって来て調べてみたところ、ヨメさんは女性用のくつも大事に使っていて、壊れたのを繕っていたのだが、その繕いのため、くつの底に敷いた紙に、すべて文字が書かれていたのだ!

―――このヨメさんなんか、まったく非難すべきところも無いのに、文字を大切にしなかった、というだけで、神さまのお怒りを受けたわけである。

・・・この話を友人の徐子楞(じょ・しろう)にしたところ、子楞、「なるほどなー」と大いに頷きまして、

「悪意が無くても文字を粗末にしただけで、カミナリにやられるのである。

世有造淫書穢史者、孽当百倍。

世に淫書・穢史を造る者有らば、孽(げつ)、まさに百倍なるべし。

そこらへんに、意味の無い文書やらうそばっかりのレポートやらを捏造しているやつがいたら、この百倍の天罰を受けることになるだろうなあ」

と言って、にやにや笑っていた。

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「翼駉稗編」巻一より。これ一部マスメディアのことだよなあ・・・と思ったら間違いです。「報道しない自由」については触れられてないんですから・・・。

しかし文字の書かれた紙を拾うことでカネになるとは。王彬はうまくやったものですね。明日から月曜日なのに、まだ「カネ儲けの方法」を思いついていないので、マズイ。暑いので会社行かないことにしたから立秋までは大丈夫だが。

 

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