平成30年7月7日(土)  目次へ  前回に戻る

金色ニワトリ大明王さまに祈願するぶた僧侶。霊験あらたかそうであるが、何を祈っているのかは不明である。

関東は晴れて蒸し暑かったんですが、あちこちたいへんな雨で、えらいことになっているようです。

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明の萬暦己酉年(1609)、浙江・呉県あたりでのできごとだそうですが、郊外のある豪農の家で僧侶を呼んでもろもろの霊を祀る法会を開催した。施餓鬼会みたいなものです。

ところが、その僧侶がどうも能力のよくないやつだったらしく、

既召群鬼、不能却退。昼夜在家撓乱作耗、現身如生人形、襤褸衣、瘦黒貌、醜悪駭異、不可名状。

既に群鬼を召すに却退するあたわず。昼夜家に在りて撓乱(どうらん)し耗を作し、身の、生人の形の如きを現わすに、襤褸の衣、瘦黒の貌、醜悪駭異なること名状すべからず。

多くの霊魂どもを集めるには集めたのだが、これを追い返すことができなかったらしくて、霊魂どもは昼も夜もその家にいて、大騒ぎしたり盗みをしたりした。そのニンゲンのような姿を現実に出現させるのだが、ボロをまとって瘠せて黒ずんだ顔をして、醜悪でびっくりするぐらい変な姿で、コトバで表わすことができないぐらいであった。

こんなやつらが、

或凭欄而嘯、或坐檻而吟。

或いは欄に凭れて嘯き、或いは檻に坐して吟ず。

家の濡れ縁の欄干にもたれて口笛を吹いていたり、その手すりの上に座って歌をうたったりして、やりたい放題なのである。

家人於壁隙中窺之、聴其声音啾啾如小鳥、斉声共念、阿弥陀仏身金色苦悩子買却猪頭無脳子、惟此十七字、日以爲常。

家人、壁隙中よりこれを窺がい、その声の音啾啾(しゅうしゅう)として小鳥の如きを聴けば、声を斉(ととの)えて共に「阿弥陀仏身金色なり、苦悩子よ、買却せよ、猪頭の無脳子を」、この十七字のみを念じて、日に以て常と為す。

その家のひとたちが、壁の隙間からそいつらのやっていることを覗いてみると、「チュウ、チュウ」と小鳥の鳴き声のような声で話しているのであるが、何を言っているのかよくよく聴くに、みんな声をそろえて、

「アミダ如来の姿は金色だー、困り切ってるお方さまよー、ブタの頭の頭無しのあいつを買ってこいよー」

と十七文字ばかりを毎日毎日唱えているのである。

「どうすればいいかのう」

家の主人は困り果てて、ひそかに下人を一人、呉城の町中に行かせて東天王堂に住持する老道士・陳鐘さまに亡霊退治をお願いすることにした。

道士は快く引きうけてくださった。

道士素精於符簶之術、縛邪多著効、遂詣其家、作法事一昼夜。

道士もとより符簶の術に精しく、邪を縛して著効多く、遂にその家に詣りて、法事を作すこと一昼夜なり。

陳道士はもともとお札を使う術に精通しておられ、これまでに多くの邪悪なモノを退治して有名な方であった。すぐにその家に来てくれて、早速一昼夜に及ぶ儀式を行ってくれた。

この術を行ったところ、

群鬼悉退舎矣。

群鬼ことごとく退舎せり。

多数の霊魂どもは、みな家から追い出されて行った。

「これでもうよろしかろう」

「ありがとうございました、これは些少ながら・・・」

「これはこれは。いやいや道士として為すべきことを為したまでですじゃのにのう・・・」

遅明謝主人登舟。

遅明、主人に謝して舟に登る。

翌朝、家の主人に送られて、城内に帰るために舟に乗った。

その舟が進んでいくと、

忽見岸上数百蓬頭餓鬼、破砕襤褸、怪状奇形、猙猩可畏、下舟寄載。

たちまち岸上に数百の蓬頭の餓鬼、破砕襤褸にて怪状奇形、猙獰(そうどう)畏るべきもの見(あら)われ、舟に下りて寄載せんとす。

突然、岸の上に、数百の頭がぼさぼさの飢えた霊魂どもが現れた。あちこち壊れてボロボロで、異常で奇態な姿をし、にくにくしげで恐るべき様子である。彼らは岸が降りてきて、舟に乗せろと騒ぎ出した。

どうやら、道士の術は一定のところから悪霊たちを追い払うことはできるのですが、彼らを滅亡させてしまうものではなかったのだ。

不容。便向道士攔抵。

容れず。すなわち道士に向かいて攔抵す。

「ええい、うるさいやつらじゃ」

道士は舟に乗せず、手箱を開けてお札を取り出そうとした。

「そうはさせんぞ」

霊魂どもは道士の動きを邪魔し、さえぎった。

そして言うには、

吾属鬼也、田舎老公多財、合与求食、何与阿師事。而駆逐至是乎。

吾は鬼に属せり、田舎老公財多く、まさにともに食を求めんとす、何ぞ阿師の事に与からん。しかるに駆逐してここに至るや。

「わしらは悪鬼のグループの所属しておるが、田舎の豪農は豊かな財産を持っておる。だからそいつのところに来て、たらふく食わせてもらおうと思っていた。それがお師匠どの(陳道士のことをいう)と何の関係があるのか。それなのにこんなところまで追い出しおってからに」

共挙手摑其頬。

共に手を挙げてその頬を摑めり。

悪霊どもは一斉に手を延ばして、道士の頬をつねった。

「や、やめよ、やめんか!」

道士がなんとか手箱を開き、悪霊退散のお札を取り出すと、悪霊たちは

「うひゃあ」「これはたまらん」「まいったまいった」

と口ぐちに呼ばうと、逃げ出して行った。

しかし、道士はそれ以来、何やら精神を取り去られたようにぼんやりとしてしまい、

帰病三日而亡。

帰り病みて三日にして亡ぶ。

東天王堂に帰りついたあと、寝付いてしまって、わずか三日で亡くなってしまった。

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「獪園」第十三より。悪いやつらですね。

 

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