強力なものとその配下のものたちには一方的にやられるしかないのである。
明日休みのはずだがもしかしたら・・・と思ったら、やはりまだ木曜日だった。明日もイヤだなあ。しかし今日は午後雨が降って風が吹いたので涼しくてよかった。
・・・・・・・・・・・・・・
日曜日にお話した北京の四凶宅、こんなのもあったそうです。
西河に沿った地区にあった屋敷は、住んだひとが数か月で亡くなってしまうので有名であった。
お役人の某というひと、自ら肝っ玉がでかいと人に誇っておりましたが、このひとが家族の反対を押し切って、この家を借りて暮らすことにした。
昼間見まわると別におかしなところはなかった。主人の寝室の壁に棚があって扉がついているのだが、開いてみても中は棚になっているだけで何も入っていなかった。
夜になって、
方就枕、壁廚忽開。
まさに就枕せんとするに、壁廚たちまち開く。
そろそろ寝ようと布団に入ったところ、この棚の扉が突然・・・ぎ、ぎ、ぎ・・・と開いたのでございます。
某が驚いて見つめていると、そこから、
どすん。
有一騎躍下。人長三寸許、戎装、腰弓矢執戈、環地而馳。
一騎躍下する有り。人、長三寸ばかり、戎装し、弓矢を腰にして戈を執りて、地をめぐりて馳せる。
小さな馬に乗った何者かが飛び降りてきた。それは人の形をしていて、背の丈10センチ程度、軍装をし、弓矢を腰につけ、ホコを握って、床に降りるとそこをぐるぐると馳せ廻っている。
「むむむ・・・」
そいつに気をとられているうちに、
どすん、どすん、どすん・・・。
須臾連躍下数十騎、装束皆同。
須臾にして連躍して下るもの数十騎、装束みな同じ。
次々と棚の奥から数十騎が飛び降りてきた。格好はみんなおんなじである。
「むむむ・・・」
どすん。
末後一人、紅袍騎馬出、似領隊者、指揮衆騎攢射。
末後の一人、紅袍にして馬に騎りて出で、領隊する者のごとく、衆騎を指揮して攢射せしむ。
最後に、赤い上着をつけたやつが馬に乗って出てきたが、こいつが部隊長らしく、ほかの騎兵を指揮して、ベッドから身を乗り出していた某に向かって、群がって弓を射かけてきた。
「うわあ」
其矢長寸許、著股痛入心腑。
その矢、長さ寸許、股に著して痛心腑に入る。
その矢は長さ3センチぐらいであったが、これがふとももを突いてきて、心臓やはらわたに応えるほど痛かった。
「い、いたたたた!」
急蒙被以枕投之。家人聞声奔集、諸騎皆杳。
急に被を蒙りて枕を以て投ず。家人声を聞きて奔集するに、諸騎みな杳たり。
咄嗟に掛け布団をかぶって身を守るとともに、枕(陶器製)をそいつらに向けてぶん投げた。
がちゃん!
その物音を聞いて家人らが駆けつけて来たときには、さっきの小さな騎兵たちはどこにもいなかった。
夢かマボロシか、と思ったが、股間に焼け付くような痛みがあるので、
啓視射処、一箭洞入、抜之、小鉄針也。
射るところを啓視すれば一箭洞入し、これを抜くに小鉄針なり。
騎兵たちが矢を射たところを見てみると、長さ三センチぐらいの矢が深々と刺さっていた。これを抜いて調べたところ、小さな鉄の針であった。
とにかく痛みが激しく、腫れあがって歩くこともままならぬので、
某遂移去。
某ついに移去す。
某は翌日すぐにその家から運び出されて、郊外で療養することになった。
しばらく寝付いていたが、どうもよくならず、辞職して郷里に戻ったということである。
・・・・・・・・・・・・
「翼駉稗編」巻二より。コワいなあ。