「大自然と仲良くして、ともに長生きしよーう!」などとコドモやメルヘン好きのひとが思ったりするとすると、昔のひとよりオロカと云うべきだろう。
やっと、金曜日。このところの体調の悪さは睡眠問題だけでなく、いよいよ夏バテが始まってきたのではないか、と思います。明日は暑いらしいのでもうダメだー。
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清の時代のことです。
洪飴孫というひとは、おやじは翰林院編修にまでなったエラいひとで、本人も嘉慶戊午年(1798)に挙人になり、湖南の某県の知事として赴任した。
署中庁事、旧有園池、古木参天。
署中庁事するに、旧園地有りて、古木天に参す。
役所で仕事をしようとすると、古い庭と池があって、何本もの老木が天に向かって葉を広げていた。
洪知事はそのせいで執務室が昼なお暗くなっているのをイヤがり、この木々を伐るように命じたが、小役人たちは
千年大樹素有神、不可伐也。
千年の大樹にはもと神有り、伐るべからざるなり。
「千年を経た大樹にはどうしても神霊が宿ります。伐ってはいけませんよう」
と反対して作業をしようとしない。
知事は激怒しまして、
亟先芟樹枝。明日再断其根。
亟(すみや)かにまず樹枝を芟(か)れ。明日、再びその根を断たん。
「すぐにまず木々の枝を刈り取れ。明日は今度は根っこを引っこ抜くんじゃ!」
と強く命令しましたので、小役人たちは
「あわわ」「これはえらいこっちゃで」「どうなっても知りませんよー」
と言いながら、木々の枝を伐り落としました。
するとその晩のことです。
洪夢緑袍者数十人、皆折臂流血。訶洪曰、汝家福禄尽矣。
洪、緑袍者数十人の、皆臂を折りて流血せるを夢む。洪を訶して曰く、「汝の家の福禄尽きたり」と。
洪知事は、夢の中で、数十人の緑の服を着たひとたちが、みんな腕を折られ、そこから血を流している姿で現れるのを見たのです。そのひとたちは、口ぐちに、「おまえの家の幸運のもとも、これでおわりじゃ、いっひっひー!」と激しい口調で言ったのでした。
「むむむ・・・」
知事が朝起きて、執務室の方に行きますと、
但見池水尽変成血、樹皆人立而啼。
ただ見る、池水のことごとく変じて血と成り、樹みな人立して啼けるを。
池の水が真っ赤に染まり、血のように変じていました。そして、枝を失った木々が、ニンゲンのように立ち上がって、泣き声をあげていたのです。
「うわああああ!」
知事は大いに驚いて倒れ、
越日死。
越日に死にき。
次の日には死んでしまいました。
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「履園叢話」十六より。うわーい、「森は生きていた」んです。大自然と仲良くしなければいけません、ということを語り掛けてくれる、コドモやメルヘンたちにも優しいチャイナ文学だなあ。