夏が近づいてきて気温が高くなってくると、モグ派が一気に増えてくる。やる気がなく、生けるしかばねのような状態である。
なんとか週末。今週も疲れ・・・いやいや、もう俗世と関係ないので気楽だなあ。
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清の時代には、「長随」という職業といいますか身分といいますか、がありました。官員や官庁の警護が本来の業務ですが、面会や陳情の取次を行って謝礼を得るなどしていた行政機構の末端集団で、世襲になっていました。
その長随の朱某というひとは、娘を周嫗(周ばあさん)の家にヨメにやっていたのですが、官員さまの異動に伴ってしばらく別の地方に行っていた。
十余年、周嫗死、朱尚不知。
十余年、周嫗死し、朱なお知らず。
十余年経って、周のばあさんが亡くなったが、朱にはまだ連絡が行っていなかった。
そんなある日、朱某は出向先から帰ってきて、
未抵家、先経女門、因入視女。
いまだ家に抵(いた)らざるに、先に女門を経て、因りて入りて女を視る。
自分の家に着く前の道すがら、娘の嫁入り先を通りかかったので、門から入って娘に会おうとした。
「こんにちはー」
と門から声をかけると、
「ああ、お久しぶりですなあ」
と、
周嫗出、延朱入門左室中、寒喧畢、即有小婢捧茶出餉客。
周嫗出で、朱を延いて門の左室中に入らせ、寒喧畢わりてすなわち小婢に茶を捧げて出でて客に餉せしむ。
周ばあさんが出てきて、朱を引っ張って門の左の部屋の中に入らせ、寒さ暑さのあいさつをしながら、幼い下女に茶を持ってこさせて客の朱に進めた。
朱は茶を啜りながら、
「周ねえさんにもお変わりありませんか」
と問うと、
「それがわたし、最近どえらいことになりましてなあ」
と答える。
「どうされたんです?」
「それは後で話しますさかい、それより朱さんのことじゃ・・・」
嫗絮絮問朱出門後光景。
嫗、絮絮(じょじょ)に朱の出門後の光景を問う。
ばあさんは、ゆっくりと、朱が旅に出てからのことをいろいろ訊いてきた。
・・・ところで、朱の娘は、父が家に寄っていることに全く気付いていなかったのだが、
適自棺前過、見蓋倚壁立、棺空無屍、駭絶。
たまたま棺前より過ぎるに、蓋の壁に倚りて立ち、棺空しく屍無きを見て、駭絶せり。
たまたま、ばあさんの棺が安置されている前を通り過ぎたところ、棺の蓋が壁に寄せかけて立ててあり、棺の中には死体が無いのを見て、失神しそうなぐらい驚いた。
大騒ぎして家人らを集め、「ばあさんの死体が無い」と探し求めた。
尋至門側、見其父与姑対座。
ついで門側に至るに、その父と姑と対座するを見たり。
それから門の側まで来たところ、そこに、ここにいるはずの無い二人、すなわち遠いところにいるはずの自分の父と、死んだはずの姑が向かい合って座っているのが見えたのである。
「お義母さん! お父さん! あんたたち、なぜここにいるッ!」
大呼。
大いに呼ばわる。
大声を出して呼びかけた。
すると、
屍蹶然仆地。視其婢、乃芻霊也。
屍、蹶然として地に仆る。その婢を視るに、すなわち芻霊なり。
周嫗の死体は地面にばたんと倒れてしまった。下女だと思っていたのは、よくよく見ると人形であった。
しかし、お茶は家の台所で淹れた本物であった。
家人たちは
「早いところ何とかしなければ」
と相談して、
相与舁屍入棺、至郊外焚之。
相ともに屍を舁いて棺に入れ、郊外に至りてこれを焚く。
何人かで死体を担ぎ上げて棺に入れなおし、そのまま町の外まで持って行って焼き上げてしまった。
朱某は何がなんだかわからないうちに、何度も、自分が生きていることを説明しなければならなかったそうである。
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説明できないと焼かれてしまいますからね。
清・湯用中「翼駉稗編」巻二より。おいらはもう俗世にいませんので、みなさんが見かけることはないと思いますよ。ああ楽チン、楽チン。