平成30年4月13日(金)  目次へ  前回に戻る

そろそろ春も終わりに近い。今年も佳き季節は去り行こうとしている・・・。

なんとか週末になった。週末になって気が大きくなったので、オレさまが物知りだということをひけらかすぜ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

みなさんあまり知らんと思いますが、紀元前二世紀の中ごろの東方朔が撰した(と伝えられる)「十洲記」という本を開きますと、

「火澣布」(かかんぷ)

というものが記載されています。

海内十洲のうち南海中にある炎洲には、

有火林山山中有火獣、大如鼠、毛長三四寸。

火林山なるもの有りて、山中に火獣有り、大いさ鼠の如く毛長三四寸なり。

火林山という山があり、その山の中には「火獣」というドウブツがいる。その大きさはネズミぐらいだが、毛の長さは十数センチほどもあるのである。

或曰山可百里許、取其獣毛、績以爲布、名曰火澣布、国人衣服之。

あるいは曰う、山の百里ほどばかりにて、その獣毛を取りて績みて以て布と為し、名づけて「火澣布」と曰い、国人これを衣服せり。

あるひとからの情報では、その山から六十キロぐらい以内の地域では、その火獣なるドウブツの毛を採取して紡績して布を織る。この布を「火で洗う布」といい、そのあたりの人民はこれを使って衣服にしているのである。

この布は普通の布とは違います。

此布垢汚、以水浣濯之、終日不潔。以火焼布、両食久許出、其垢即去、白如雪。

この布垢汚するに、水を以てこれを浣濯するに、終日潔ならず。火を以て布を焼くに、両食の久しかるほどに出ださば、その垢即ち去り、白きこと雪の如し。

この布は垢で汚れた場合、水を以て洗い濯いたところで、一日かかってもキレイにならない。かわりに火で布を炙ると、朝飯を食べ始めて昼飯を食べ終わるころには、ついていた垢が落ちて、雪のように白くなるのである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから五百年ぐらした四世紀のひと晋の郭洪「抱朴子」には、

「火浣布」(かかんぷ)

というものの紹介があります。これも南海中にある蕭丘という山に、

有自生之火、常以春起而秋滅。

自生の火有り、常に春を以て起こりて秋に滅す。

自然に発火する火がある。毎年春に発火して、秋になると消えてしまうのである。

丘方千里、常火起時、此丘上純生一種木。火起正着此木、木雖為火所着、但小燋黒。

丘の方千里、常に火の起こるの時、この丘上に一種の木を純生す。火起こりてまさにこの木に着し、木は火の着するところとなるといえども、ただ小燋黒のみ。

この山は山域が六百キロ四方もあるのだが、火が発火するときは、必ずこの山中にある種の木が自生し、発火した火はこの木にだけ着火するのである。火がついて(秋まで燃え続けて)も、木の方は少しだけ焦げて黒くなるだけである。

その地方の現地人は、

或以爲薪者、如常薪。但不成炭。炊熟則灌滅之、後復更用如此無窮。

或いは以て薪とするに、常の薪の如し。ただ炭を成さず。炊熟すればこれに灌ぎて滅し、後またさらに用いて、かくの如く窮まり無し。

時にはこの木を伐って薪木として用いるのである。薪木としては普通の木と同様に使えるのだが、炭にはならない(燃やしてもそのままである)。この薪木を使って炊事を行うときは、料理が煮えたら水をかけて火を消す。後で火をつければ、そのまままた繰り返し使うことができる。

この木には花も咲きます。

夷人取木華、績以爲火浣布。木皮亦剥以灰煮為布、但不及華細好耳。

夷人木の華を取りて、績みて以て「火浣布」と為す。木の皮もまた剥ぎて灰を以て煮れば布と為るも、ただ華の細好なるに及ばざるのみ。

現地人どもはこの木の花の絮と採ってきて、紡績して「火で洗う布」を作る。木の皮を剥いで、灰を入れた湯で煮るとやはり布が作れるが、こちらは花絮から作ったものほどきめ細かで上等ではない。

もう一つ

有白鼠大者重数斤、毛長三寸、居空木中。其毛亦可績為布。故火浣布有三種焉。

白鼠の大なるもの重さ数斤にして、毛長三寸なるもの有りて、空木の中に居る。その毛また績みて布と為すべし。故に火浣布は三種あり。

白いネズミで(通常のネズミより)大きく、数キロの重さがあり、毛の長さ10センチぐらいのがいて、木のうろに棲んでいる。こいつの毛も採取して紡績すると「火で洗う布」を作ることができるのである。

というわけで、「火で洗う布」には(木の花絮、木の皮と、ネズミの毛の)三種があるのである。

この三番目のネズミの毛が、「十洲記」の「火澣布」と同じもの、あるいは類似のものと思われます。

「十洲記」では一種類しかなかった「火澣布」が「抱朴子」の「火浣布」では三種類となっています。前漢から晋までの500年ほどの間に、南海の現地人の技術が進歩したのか、より多くの情報がチャイナにもたらせるようになったのか。ナゾは深まるばかりである。

・・・・・・・・・・・・・・・

書物の上で読んだだけの知識で、自分で南海中行って調べてきたわけではないんです。しかもどちらも唐・欧陽詢編「藝文類聚」巻八十より孫引きしたもの。もしかしたらゲンダイではもっと種類が増えているかも知れません。ほんとは体力のあるうちに自分で調べに行かないといけないんですが・・・もう行ってしまおうかな・・・。

 

次へ