今は無能にしか見られていないおれたちが、ひと昔前には大活躍していたことなど、もう誰からも忘れられてしまっているのだろうなあ・・・。
今日は定年退職のひとを送ったりした。40年ぐらい前の世の中を思い出すと、改めてずいぶん世の中変わったなあ、という気がします。パソコンはもちろん日本語ワープロも無い時代のことは、いまの若いひとは全く知らんですじゃろう。みんな昔のことはほんとにすぐ忘れ去れて行ってしまうものなのじゃなあ。
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明の時代のことらしいんですが、科挙の地方試験に受かった陳文偉という人がいました。たいへん力の強いひとで、あるとき、田んぼの見回りをしていて、
猛虎撲地而来、両手搏虎肩、両足蹴其勢。虎死、遂以力名。
猛虎地を撲ちて来たるに、両手虎の肩を搏ち、両足その勢を蹴る。虎死して遂に力を以て名す。
猛り狂ったトラが地面を踏みしめながらやってくるのに出会った。陳は、両手でトラの肩を殴り、両足でそのチンポコを蹴り飛ばした。
うおーーーーん
と一声吼えて、虎は死んでしまい、「強力の陳」の名が知れ渡った。
のだそうです。
その後、山東・安丘の知事に補されて赴任したとき、
流賊百余掠庫。
流賊百余、庫を掠す。
百人余りの移動強盗団が府の倉庫を荒らしまわった。
このとき、陳文偉は、まず、
勅群吏謹簿書、諸宝蔵一聴掠之。
群吏に勅して簿書を謹み、諸宝蔵は一にこれを掠するに聴(まか)せしむ。
部下の官吏たちに命じて、役所の文書類はきちんと保管させ、物資の倉庫については強盗団の掠奪するに任させた。
「うっしっし」「抵抗されないから楽チン、楽チン」
強盗団は倉庫から金品類を盗み出すと、城下から出て行った。
良久、問左右、賊去幾何。
やや久しくして、左右に「賊の去ること幾何ならん」と問う。
しばらくしてから、配下の者たちに「強盗団はどれぐらい遠くへ行ったかなあ」と質問した。
約三十里矣。
約三十里ならん。
「15キロぐらい逃げたのではないでしょうか」
陳は頷いた。
「それぐらい離れれば、人民たちが誤って巻き込まれることはあるまい」
そして、
令左右、以一騎一弾来馳赴之。
左右に令し、一騎一弾を以て来たり馳せてこれに赴く。
配下の者たちに、馬と弾を持って来させ、自ら強盗団のあとを追った。
「弾」は弾丸を発射して相手を攻撃する武器で、いわゆる「パチンコ」のことです。
「よいしょ、よいしょ」
強盗団は重い金品を運びながら移動していたので、陳はあっという間に追いつくことができた。
陳は強盗団に呼びかけた。
誰為首者。
誰か首たる者ぞ。
「どいつが頭目であるか?」
強盗団は立ち止まり、
「なんでちゅか、わずか一騎で追いかけてきて、えらそうにちてまちゅね」「やれるもんならやってみてくだちゃいよ」「ええい、返り討ちでちゅよ」
と陳を取り囲もうとしてきた。
このとき、陳は弾丸を発射した。
弾中左目。
弾、左目に中す。
弾丸は過たず、賊の一人の左目に当たった。
「うひゃあ。やられまちた」「ええい、みんなやっちまいまちょう」「多勢な無勢だ、負けるわけありませんでちゅよ」
又発、中左目。
又発し、左目に中す。
陳が二発目を発射すると、また賊の一人の左目を潰した。
その後も陳は次々と弾丸を発射し、すべて賊どもの左目に当たったので、十数人が倒れたところで、
「うわーん、これはかなわん」
賊惶駭、伏地乞命。
賊惶駭し、地に伏して命を乞う。
賊どもはあわてふためき、土下座して「命ばかりはお助けを」と懇願した。
陳は言った。
好為我送庫金。
よろしく我がために庫に金を送れ。
「それでは、わしのために倉庫まで金品を戻してくれんかな」
「あいあい」「わかりまちたー」「お言いつけどおりにいたちまちゅー」
群賊唯命、公尾其後。抵県、各杖遣之。
群賊命を唯し、公その後に尾(つ)く。県に抵(いた)り、おのおの杖してこれを遣(や)れり。
強盗団の者どもは命令に従ったので、陳公はその一番後ろについてきた。県庁まで来て金品を倉庫に入れなおさせると、
「今回は実質上なんの被害も出なかったから、刑事事件にしてしまう必要はなかろう」
と言いまして、全員に何発づつか杖をくらわした上で、追い出してしまった。
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「続耳譚」巻四より。陳文偉は正式な歴史書には全く名を遺していないのですが、その活動は清の時代にまで伝わって、清代になってから書かれた「明史擬稿」(明の正史の素案のもどき)や「残明紀事」(明の正史から取りこぼされた事件記事)といった書物にも記録されているのだそうでございます。ひと昔前のことはどんどん忘れられていく世の中で、ひとびとの記憶に残る続けたとは、真の英雄であったのでありましょう。
それにしてもアップするのたいへんなんです。最近それで睡眠不足で昼間居眠り多い。