平成30年3月19日(月)  目次へ  前回に戻る

電波に操られて、危険な巨大おにぎりに近づいていくぶたロボット。自分の意志とは関係無しに無心に大量の食物を摂取してしまうことのなんと多いことか。

月曜日からイヤなことがありましたが、今週はお彼岸のおかげで一日休みがありますから、なんとか・・・いや、むりか・・・。

なお、昨日はとうとう更新を送信できませんでした。昨日の調子では今日も送信できないような気がします。

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むかしむかしのことだそうですが、

秦市幻人、有能烈鑊膏而溺其手足者。烈鑊不能壊、而幻人笑容焉。

秦市の幻人、よく鑊に膏を烈して、その手足を溺せしむる者有り。鑊を烈するも壊するあたわず、而して幻人笑容たり。

の「秦市」は「秦の始皇帝」の「秦」ではなくて、「後漢書」にいう西域の「大秦」、すなわちローマ帝国のことです。

三国のひと魚豢(ぎょかん)の「魏略」に、

大秦国俗多奇幻、口中出火、自縛自解、跳十二丸、巧妙非常。

大秦の国俗に奇幻多く、口中火を出だし、自ら縛して自ら解き、十二丸を跳び、巧妙非常なり。

ローマ帝国の風俗として、不思議な魔法が多い。口から火を吹いたり、自分で自分を縛って自分で縄抜けしたり、十二のボールの上を飛び回るなど、巧妙で見ごとなものであった。

とあるようにローマ帝国には魔法使いが多かったので、「幻人」とセットの「秦」はローマ帝国のことだ! と覚えておきましょう。

ローマ帝国から来た魔法使いの中に、大鍋にあぶらを入れて下から激しく熱したものに自分の手や足を浸す、という術を使うものがあった。なべを激しく熱しても手足を傷つけることはなく、しかもその魔法使いはニヤニヤと笑っているのである。

無能先生、この魔法を見て大いに驚き、魔法使いを呼んでその術について訊ねた。

幻人曰受術於師。術能却火之熱。

幻人曰く、「術を師に受く。術よく火の熱を却(しりぞ)く」と。

魔法使いが言うには、「この術はお師匠さまから教えていただきました。この術を使うと、火の熱から身を護ることができるのです」と。

「しかしながら・・・」

と魔法使いは続けました。

然而訣曰、視鑊之烈、其心先忘其身。手足枯孽也、既忘枯孽手足、然後術従之。悸則術敗。

然して訣して曰く、鑊の烈を視るに、その心まずその身を忘れよ。手足枯蘖なり、すでに枯蘖の手足を忘れ、しかる後術これに従う。悸すればすなわち術敗るるなり。

「この術を行うには秘訣がございます。大なべがぐらぐら煮えているのを見たら、自分の体のことを心の中から消してしまうことが必要なのです。手足は枯れた木に生えたひこばえである、と何度も心に言い聞かせます。その枯れた木のひこばえでしかない手足のことさえ忘れてしまう、という状態になったところで、この術を使うことができるのです。やっている最中に不安に思ってドキドキしたりしたら、大失敗になってしまうのです」

「うむ。なるほどのう」

無能先生は大いに頷き、弟子たちを顧みておっしゃった。

小子志之、無心於身、幻人可以寒烈鑊、況上徳乎。

小子、これを志(しる)せ、身に無心なれば、幻人も以て烈鑊を寒しとすべし、いわんや上徳をや。

「諸君、覚えておきなされ。自分の体のことを心の中から消してしまうことができれば、魔法使いにだってぐらぐら煮え立った大なべが冷たい、と思えるのじゃ。高い徳のあるひとならどれほどのことができるであろうか」

とのことです。

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唐・無名氏「无能子」巻下より。大なべに手足入れているときにドキドキしたらえらいことになってしまいますよ。

ところで、「上徳」というのは「老子」第三十八章に見えるコトバです。

上徳不徳、是以有徳。下徳不失徳、是以無徳。上徳無為而無以爲、下徳為之而有以爲。

上徳は徳とせず、ここを以て徳有り。下徳は徳を失わず、ここを以て徳無し。上徳は為す無くして以て為すこと無く、下徳はこれを為して以て為す有り。

高い徳のある人はそれを徳だと思っていないから、徳が発揮される。それほど高くない徳しかもっていない人は自ら意識して徳を失わないようにしようとしているから、徳を発揮できない。高い徳ある人は自然に任せて作為的に何かをしようとすることが無く(だから何事もスムーズに運ぶが)、それほど高くない徳しかもっていない人は意識的、人為的に何かをしよう、とするから、どうしても無理が起こる。

というようなことを言っているのですが、とにかく何にもしなければいいんです。「きみ、何かシゴトしたまえ」と言われたら

―――老子三十八章を読んだので、おいらは何もしないんでしゅう。うっしっし。

と言って、ニヤニヤしていればいいのだ。

 

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