ついに春が来てウグイスがやってきたが、ヒヨコとの権力争いが熾烈である。
ウィンドウズ10にやられてから送信するのに一時間ぐらいかかる状態となっています。今日は送信できるかな。できなくても何がマズイとか世の中がどうなるというわけではありませんが。
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明の時代に鐘髽髻(しょう・さけい)と呼ばれる術者がおりまして、長安の南にある終南山に棲んでいた。
「髽」(さ)は髪を束ねただけで垂らしておく、いわゆる束髪のこと。「髻」(けい)はもとどりを結ぶこと。そういう変な髪型をしていた人だったんです。
長安都御史の張泰というひとが興味を持って、
召見、欲受其術、不従、乃遣還。
召見しその術を受けんと欲するも従わず、すなわち還らしむ。
召し出して、その術を教えてもらおうとしたが、いやがったので、帰らせることにした。
ところが、
時大雨、左右欲以蓋送之。
時に大いに雨ふり、左右蓋を以てこれを送らんとす。
その時、たいへんな雨が降り出したので、張泰の部下たちは傘を貸して送り出そうとした。
しかし、
張公笑曰、不須也。
張公笑いて曰く、「須(もちい)ざらん」と。
張は笑って、「要らんお節介だよ」と言った。
そのとおりで、
鐘径衝雨而出、倐然弗見。使人往饋以果核、室門尚扃、而鐘已在内。
鐘、径(ただ)ちに雨を衝きて出で、倐然として見えず。人をして往きて果核を以て饋らしむるに、室門なお扃(けい)するに、鐘すでに内に在り。
鐘はすたすたと雨の中に出て行き、そのままふっと見えなくなってしまった。
「今日はせっかくお見えいただいたのに、何のお礼も出来なかったので、この果物でも持って行ってあげなさい」
と張が言うので、
使いの者が果物を以て伺うと、鐘の家の扉には中からカンヌキがかけられたままになっているのに、もう鐘は家の中にいたのだ。
衣裳了無沾濡、出携果核入房、身忽又在外、莫能測也。
衣裳了として沾濡する無く、出でて果核を携えて房に入るに、身はたちまちまた外に在りて、よく測るなし。
衣服は少しも濡れておらず、出てきて
「いや、これはかたじけない」
と言いながら果物を手にして部屋に入って行ったはずなのに、使いの者が振り向くと、もう門の外にいて、
「張公によろしくお伝えくだされ」
と見送ってくれた。まったくどういうことだか予測不能な能力であった。
さて、別の時に、鐘は文人書生たちと長安の郊外に散歩に行った。このとき、文人らが戯れて言うに、
先生有奇術、蓋試之乎。
先生奇術有れば、なんぞこれを試みざるや。
「先生には不思議な術があると聞くが、どうしてそれを見せてくだらないのですか」
鐘は手を振って断ったが、みんなで「是非に」と頼むと、
握土一塊、遂不見。
土一塊を握るに、ついに見えず。
しゃがみこんで土を一握り手にした―――と、鐘の姿は消えてしまったのであった。
「なんだなんだ」「どういうことだ」
と不思議がりながらもみんなで城門まで帰ってくると、
見鐘臥其下。曰、君輩来何遅也、吾寝一覚矣。
鐘のその下に臥すを見る。曰く「君が輩、来たること何ぞ遅きや、吾寝ねて一覚せり」と。
鐘は城門の下に寝転んでいたのであった。
そして起き上がると、
「みなさん、お見えになるのに時間がかかりましたなあ。わたしはひと眠りして今起きたところですよ。ひっひっひー」
と笑ったのであった。
其幻化、若此。
その幻化することかくのごとし。
彼の不思議な術は、このようなものであった。
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明・陸粲「続耳譚」巻六より。おいらも明日、会社からふっといなくなって、家に帰ってきて果物食べながら、「ひっひっひー」と笑いたいものである。というか、行かなければもっといいのかな。
なお、明・謝肇淛「五雑組」巻五にもこの人のことが出てきて、それによれば、
鐘髽髻握土一塊、遂不見、土遁者也。
鐘髽髻が土一塊を握りて遂に見えざるは、土遁なるものなり。
鐘髽髻がしゃがみこんで土を一握り手にした途端にその姿を消した、というのは、いわゆる「土遁の術」というやつである。
と見破られているのであった。ただし、見破ったからといってどうすればいいということは解説されていません。