あまりにも動きが鈍いので、なんとぶたとのごときに捕まってしまったウサギたちだ。
そのままぶたとのの遊び相手にされてしまう。
ずいぶんがんばったなー、と思ったのに、まだ火曜日。寒いのに、今週もあと三日も会社に行かないといけない。もうイヤだ、キレてやるぜ。
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キレたひとの話をします。
むかしむかし、魏の来丹という若者は実力者の黒卵に父を殺されたので、かたき討ちをしたい、と思った。ところが、来丹は
形甚露、計粒而食、順風而趨。
形甚だ露(あら)われ、粒を計(かぞ)えて食らい、風に順いて趨る。
骨がはっきり見えるぐらい瘠せており、食が進まないので米粒を数えながらなんとか食べ、風が吹くとそれに逆らうことができず、風下に向かって小走りに移動してしまう。
という弱いやつでした。
これに対し黒卵さまは百人の男と力比べができ、普通の刃で首を斬っても切れず、鏃は胸に刺さらない、という強さであった。
来丹、ここにおいて友人の申多に涙ながらにどうすればかたき討ちができるか、相談すると、申多は衛の孔周が持つという宝剣を借り出すように教えた。
来丹は早速孔周を訪ねて下僕・馭者が主人に仕える礼を執って、剣を貸してくれるように依頼すると、孔周は言った。
吾有三剣、惟子所択。
吾に三剣有り、ただ子が択ぶところなり。
「わしは三振りの宝剣を持っておる。おまえがよいと思うものを貸してやろう」
三剣とは、
1 これを見ても見ることができず、これを振るってもその有ることを認識できず、これが身に当たっても相手は何も感じず、斬ったあとが残らない、という「含光の剣」
2 夜明けと夕暮れのかすかな光の中で北に向けて見た時に、ふわふわとしたものがぼんやりと見えるだけで、これが身に当たるとかすかな音がするだけで、斬られた相手に傷がつかない、という「承影の剣」
3 昼間はその刀身の影だけが見え、夜には一条の光は見えるが形は認識できない。これが身に当たると真っ二つにされるが、された後に引っ付いてしまう、という「宵煉の剣」
である。
孔周言うに、
此三宝者、伝之十三世矣。而無施於事、匣而蔵之、未嘗啓封。
この三宝なるものは、これを伝うること十三世なり。而して事に施すこと無く、匣してこれを蔵し、いまだかつて封を啓くこと無し。
「この三つの宝剣は、十三代前のご先祖さまから伝わってきたものだが、これまで何かに利用したことはなく、箱に入れてしまってきたもので、いまだに一度も箱を開いたことがないのである」
と。
来丹曰く、
雖然、吾必請其下者。
しかりといえども、吾必ずその下なるものを請わん。
「(どれでも選んでいい、ということですが)そうはいっても、わたしはその一番レベルの低いやつを貸していただければけっこうでございます」
「よろしい」
孔周と来丹は七日間物忌みをし、まる七日後の宵、ともにひざまずいて、その剣を授け、受け取った。
来丹は剣を持って魏に帰り、黒卵のあとを付け狙う。
時黒卵之酔偃牗下。
時に黒卵の酔いて牗下に偃せるあり。
あるとき、黒卵が酔って窓の下に眠り込んだことがあった。
これを好機と、来丹は
自頸至腰三斬之。
頸より腰に至るまで三きだにこれを斬る。
首から腰まで、三か所で卵のからだを輪切りにした。
あまりに剣が鋭利なので、「う〜ん」と一度唸って体を少しよじっただけで、
卵不覚。
卵覚らず。
卵は目を醒ますこともなかった。
「やったぞ」
来丹以黒卵之死、趨而退、遇黒卵之子於門。撃之三下、如投虚。
来丹、黒卵の死するを以(おも)い、趨りて退くに、黒卵の子に門に遇う。これを撃ちて三たび下すも、虚に投ずるが如し。
来丹は卵が死んだのだと思い込んで、逃走しようとしたところ、黒卵の息子に門のところで出会ってしまった。有無を言わさずに三回斬りつけた―――のだが、鋭利過ぎてまるで虚空を斬っているようである。
しかも、剣が体を通り過ぎると、すぐに斬れたところが引っ付いてしまうのだ。
卵之子方笑曰、汝何蚩而三招予。
卵の子、まさに笑いて曰く、「汝何を蚩(あざけ)りて三たび予を招くや。」
卵の子、すぐに大笑いして、曰く「来丹ではないか。おまえは何をふざけて、三回もわしを拝むのだ?」
卵の子からすると、斬られている実感も無く、しかも剣が目に入らないので、手を振って拝んでいるようにしか見えないのである。
「斬れすぎて斬れないのか」
来丹は
歎而帰。
歎きて帰る。
ためいきをついて帰ってしまった。
家の中では黒卵が目を醒まし、
怒其妻、曰、酔而露我、使我嗌疾而腰急。
その妻に怒りて曰く、「酔いて我を露わし、我をして嗌(のど)疾み、腰急ならしむ」と。
その妻に向かって怒鳴り散らしていた。
「わしを酔っ払ったまま蒲団もかけずにおいたから、わしののどは痛いし、腰が違ってしまったではないか。
首と腰と、背中がどうも痛くて、なにやら少しずれてしまっているみたいじゃ」
息子は黒卵に言った。
疇昔来丹之来、遇我於門、三招我。亦使我体疾而支彊。
疇昔(さき)に、来丹の来たりて、我に門に遇い、三たび我を招けり。また我が体をして疾ましめ、支を彊ならしむ。
「さきほど、来丹が来ていたみたいで、門のところでばったり会ったんです。何やらわたしの方に向かって三回、拝むような仕草をしました。そのあと、わたしも体が数か所痛く、また手足がこわばったようにうまく動かないのです。
彼其厭我哉。
彼、それ我を厭(えん)するや。
おかしなやつだと思っていたが、あいつ、何か変な呪術を使ったのかも知れません。
父上もやつに呪われたのでございませぬか」
と。
以上。
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「列子」湯問第五より。いい話だなー。
あんまりキレすぎるとキレているとわからないのです。わしのキレかたもキレすぎているので、世間のやつらにはわからないようである。