へー、そんな怪しからんネコもおりますのかニャ。
「もう耐えられない!」
と昨日、誰も知らない遠いところへと出かけたのだが、飛行機が別の空港に着陸してしまい、結局また強制送還されてきてしまいました。また明日からツラい日々が。
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清の時代のことなんです。
黄之駿という読書人がおりました。
好読書、左図右史、等諸南面百城。
読書を好み、図を左に史を右にして、これを百城に南面するに等しとす。
読書が好きで、むかしの絵図を左に、歴史書を右に置いて研究しながら、これぞ、百の都市を支配するのに等しい楽しみだと思っていた。
そういうひとなので、ちょっと気力が弱いといいますか、自分にも他者にも厳しくなかったんです。
もちろん独身。ヨメの代わりに、
豢一猫、用以防鼠。
一猫を豢(やしな)い、以て鼠を防ぐに用う。
ネコを一匹に飼っておりました。もちろん、ネズミを捕まえさせるためのハズである。
このネコ、トラのような模様で、なかなか強そうなのだが、
置諸書架傍、終日憨臥、喃喃吶吶、若宣仏号。
これを書架の傍に置くに、終日憨臥(かんが)して、喃喃吶吶(なんなん・とつとつ)、仏号を宣ぶるがごとし。
こいつはいつも本棚のそばに、一日中ばかみたいに寝そべっていて、にゃむにゃむみゅうみゅうと、まるで、南無南無と念仏を唱えているみたいな声で鳴いているばかりであった。
そこで、黄之駿の友人たちは、
此念仏猫也、名曰仏奴。
これ念仏猫なり、として、名づけて「仏奴」という。
「これは念仏ネコという種類のネコだぞ」と断定して、「ホトケの介」と名づけていた。
さて、黄之駿のところでは、
鼠耗于室、見仏奴、始猶稍稍斂迹。
鼠、室において耗するに、仏奴を見て、はじめなおやや迹を斂(おさ)む。
ネズミのせいで室内のいろんなものが齧られていたのだが、ホトケの介が来てから、しばらくは少し害を為さなくなっていた。
ところがある日、一匹のネズミが
跳梁失足、四体墜地。
梁を跳びて失足し、四体地に墜ちたり。
横梁を走っているときに足を滑らせて、手足を広げて真っ逆さまに床に落ちてしまった。
ホトケの介の寝そべっている目の前に落ちたのである。
ホトケの介は、落ちてきたネズミの手を伸ばして―――
撫摩再四、導之去。
撫で摩すること再四、これを導きて去らしむ。
二〜四回、なでさすってやり、それから逃がしてやった。
これを梁の上からほかのネズミも見ておりました。
嗣後、衆鼠倶無畏意、成群結隊、環繞于側。
嗣後、衆鼠ともに畏意無く、群れを成し隊を結び、側において環繞す。
それからというもの、ネズミどもはホトケの介を恐れるキモチを無くし、群れをなして側にやってきてそのまわりをめぐって遊ぶようになりやがったのです!
一日、踏肩登背、竟噛其鼻、血涔涔不止。
一日、肩を踏みて背に登り、ついにその鼻を噛みて、血、涔涔(しんしん)として止まず。
ある日など、ネズミどもは、ホトケの介の肩に足をかけて背中に登って遊び、とうとう鼻を齧って、鼻からは血がたらたらと流れて止まらなくなってしまった。
それでもホトケの介はなされるがままにしていた。
それを見た黄之駿は、
乞刀圭以治。
刀圭を乞いて以て治す。
薬屋を連れて来て、治してやった。
友人の一人が
畜猫本以捕鼠。乃不能剪除、是溺職也。反為所噬、是失体也。
猫を畜(やしな)うはもと以て鼠を捕らえんとするなり。すなわち剪除するあたわざるはこれ溺職なり。反って噬むところとなるは、これ失体なり。
「ネコを飼うのは、もともとネズミを捕らえさせようということだったはずだ。それなのに、ネズミを追い出すことができないなら、役人だったら職務放棄だ。しかもかえってネズミにかじられたというのは、国家の威信を損なったというべきことだぞ」
と追い出すように言ったが、黄之駿は
「うーん」
と悩むばかりで特に追い出す気はないようであった。
さてさて。これを聞いて、知り合いのぼうずが
以見鼠不捕為仁。
鼠を見て捕らえざるを以て仁と為す。
「ネズミを見つけても捕まえようとしないなんて、立派なネコではないか」
と言い、それを聞いたやつらは「いい加減なことを言うな」と文句を言った。
不知実仏門法也。
知らず、実に仏門の法なり。
みんな、仏門の考え方ということを知らないのだ。
だが、
若儒生一行作吏、以鋤悪扶良為要。
儒生のごときはひとたび行きて吏と作らば、悪を鋤し良を扶くるを要と為すなり。
われら儒者は、もし役人になる機会があったなら、悪いやつを除き、良いやつを助けるのがやるべきことである。
ところがこのネコのやっていることは、
乃食君之禄、沽己之名、養邑之奸、為民之害。如仏奴者、仏門之所必宥、王法之所必誅者矣。
すなわち君の禄を食らいて己の名を沽り、邑の奸を養いて民の害を為すなり。仏奴のごときものは、仏門の必ず宥(ゆる)すところにして、王法の必ず誅するところの者なり。
国家の給与をもらいながら、自分は有名になり、街の悪党を養って人民に被害を与えることである。ホトケの介のようなものは、仏門では受け入れられるが、現世の法においては必ず死刑にされるべき者というべきであろう。
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清・沈起鳳「諧鐸」巻二より。憲法九条とその信奉者を風刺してる?・・・はずがありませんので安心してください。
このネコはやる気がないのか能力が無いのかわかりませんが、ニンゲン肝冷斎はどちらも無かったなあ。現世から逃げ出すしかなかったのだろうなあ。なお、おいらはブタ肝冷斎ですからニンゲンの尺度で測られたら困りますでぶー。