平成29年10月21日(土)  目次へ  前回に戻る

瀬戸内海でタコ増えているかも知れん。

今朝から自由を求めて西方に流れていこうと思っていたのに・・・台風が来て、途中から戻されてきてしまったでぶー。

そういうわけで今日は時間が出来たので、普段お話できないありがたいお話をいたしますよ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大きな川がありました。その水際にカワウソが棲んでいた。ある日、川の北の岸を泳いでいて、川に突き出した岩の上に休んでいたハヤブサを見かけ、コトバを交わした。

ハヤブサが言うには、

「カワウソよ、君は魚を捕るのが得意だが、ボクも雀を捕るのが得意なのだ。ボクはやつらの羽音を聴くと、イナズマのように飛び、流れ星のように捕らえるのだ。しかし、十羽の雀がいたら、獲れるのは一羽ぐらいである。君は魚の群れがいたら、どれぐらい捕まえられるものなのかね」

カワウソが言った、

「雀がおまえさんを恐れるぐらいには、わしも魚から恐れられていると思っとるよ。うっしっし」

ハヤブサが言う、

「だが、見ていると、魚たちは君を見かけて逃げ出して、しばらくするとまた君のいるあたりに戻って来るようだが・・・。何か秘術でもあるのかね」

カワウソ、

「世間ではわしには目に見えない手がもう一本あって、それで魚を捕らえるのだ、というのだが、それはウソ。フェイクニュースじゃ。わしは魚を捕るとき、その群れを捕り尽さないようにしている。彼らのうちわしに捕らえられるのは何十匹に一匹だけだから、彼らはまさか自分が捕らえられることはあるまいと思って、わしのことをあまり警戒しなくなるのじゃな。

此欲擒故縦、欲貪故廉之説也。

これ、擒らんと欲するが故にほしいままにせしめ、貪らんと欲するが故に廉なるの説なり。

これこそ、捕まえようと思うからこそ好き放題にさせておき、たくさん捕らえようとするからこそ欲をかかない、というテーゼじゃよ。

うっしっし」

ハヤブサ、

「それは魚が純朴だから騙せるのだ。ボクが相手にしている鳥たちはみんな狡いからね。ハトは夫婦で協力して防御するし、雁は陣形を作って守る、ホトトギスは枝にさかさまに掛かって突っついてくる、オウムはコトバを話して情報を伝達しあう。雀だって人家の近くに逃げ込むし、ツバメは人家の軒に巣をつくる。ドバトはお寺に巣食うし、カラスは舟のマストを止まり木にしているのだ。知恵者ばかりだからね。捕らえられるときにできるだけ捕らえないと、あとで残念がっても晩いんだよ」

カワウソ、

「おまえさんの考えは大したものだが、明日のためには残しておかないといけないものもあるんではないかのう。うっしっし」

―――と、そのコトバが終わるか終わらないかのとき、

百鳥横空而来。鸇獲得四五頭、余皆竄入林中。

百鳥、空に横たわりて来たる。鸇(せん)、獲得すること四五頭、余はみな林中に竄入す。

百羽もの鳥が空を掩うように広がって飛んできた。ハヤブサは飛び上がり、あっという間に四五羽を捕まえたが、残りのやつらは林の中に逃げ込んで行った。

「おみごとじゃ、うっしっし」

とカワウソは称賛したが、

鸇意不能舎、奮翼逐之。

鸇の意は舎(お)くあたわず、翼を奮ってこれを逐う。

ハヤブサはこの程度では満足できず、翼をばたつかせてさらに捕らえに行こうとした。

再び舞い上がった瞬間―――

適射生児潜伺于側、伏機一発、鸇先貫項而死。

射生児の側に潜みて伺うにあい、伏機一発して、鸇まず項を貫かれて死せり。

弓矢使いの猟師が林の中に潜んでいて、鳥たちを狙って隠してあった仕掛け矢を発射した。その矢がほかの鳥よりも先に、追いかけて行ったハヤブサの首に突き刺さり、ハヤブサは死んで落ちてしまったのであった。

「ああ、なんとか愚かな」

カワウソはハヤブサの愚行を哀れみ、川の北岸に祭壇を設けて、ハヤブサの魂に歌いかけた。

鳶飛戻天、 鳶は飛びて天に戻(いた)り、

魚躍于淵。 魚は躍りて淵にあり。

トビは飛んで空の高いところにあがり、魚は淵で撥ねている。

と「詩経」にいうように、生物はそれぞれに与えられた天性に基づいて生きているわけだが、その中で、

惟我与爾、 これ我と爾とは、

以殺為田。 殺を以て田と為せり。

 おまえさんとわしとは、ともにほかの生物を殺すことをなりわいとしていたのであった。

廉則寡取、 廉はすなわち寡取し、

貪則同捐。 貪はすなわち捐(す)つると同じきなり。

 欲張らないものは少しづつ取る。欲張ってしまうのは、捨ててしまうのと同じなのだ。

結局は、何も手元に残らない。

何子不悟、 何ぞ子悟らず、

賚恨重泉。 恨みを重泉に賚(たま)う。

 どうしておまえさんはそのことがわからずに、残念なことに地下の世界に逝ってしまったのか。

吾今輟業、 吾、今、業を輟(や)め、

濯手江辺。 手を江の辺りに濯う。

 わしは今、もう今日のしごとを終えて、手を川のほとりで洗い終えた。

寧枵其腹、 むしろその腹を枵(キョウ)するとも、

勿喪其元。 その元を喪うことなかれ。

 腹いっぱいにならないでいても、くびを取られて死んでしまうよりはいいじゃないか。

貪人敗類、 貪人は敗類なること、

自古皆然。 いにしえよりみな然り。

凡百君子、 凡百の君子、

請視此鸇。 請う視よ、この鸇を。

 欲張りなやつは亡びてしまう。いにしえより例外はない。

 あちらこちらの旦那がた、どうぞこのハヤブサを御覧くだされ。

以上。

これがカワウソが祀りをする、「獺祭」のはじまりなのである。(←これはおそらくフェイクニュース)

・・・・・・・・・・・・・・・・・

清・沈起鳳「諧鐸」巻一より。「諧鐸」はほぼ八年ぶり。先々先代ぐらいの肝冷斎(人間)のときから、長いこと部屋の中で埋もれていたんです。

うわーい、勉強になったなあ。腹いっぱい食べてはいけなんです。しかし、少し遅かった。今日は朝、新幹線でしうまい弁当、廣島到着してスペシャルお好み焼き(そば付き)、濡れて帰ってくる新幹線でたわら握り弁当で、もみじまんじゅう一ケはばくだんがんす一ケも食った。貪り食ってしまいました。またまたすごい体重増。弓使いの矢がハラに当たって、「しゅうううう」と空気が抜けて体重も減ったらいいのだが・・・。

 

次へ