平成29年8月20日(日)  目次へ  前回に戻る

ブタやヒヨコはよくても、イヌは追放ニャぞ。

明日からまた平日ということですので、ネコはもう身を隠させていただきニャす。最後にネコ王国の古代の栄光を記録した文章を紹介しておきニャす。

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古代、ネコ王国がブタ王国を滅ぼしますと、四方の蛮族とも連絡がつくようになりました。その中に、西方の「旅」(りょ)という国があった。この「旅」国から、特産品の「獒」(ごう)を贈ってまいりました。

「獒、とはどんなものじゃろうニャあ」

と王さま以下、贈り物の箱を明けますと、

「がおー!」

中から、巨大なイヌが出てまいりました。「獒」とは、巨大なイヌという意味だったのです。

これを見て、当時、太保の位に在りましたネコ召公さまが王さまに申し上げたことには―――

嗚呼、明王慎徳、四夷咸賓、無有遠邇、畢献方物、惟服食器用。

嗚呼、明王徳を慎み、四夷みな賓して、遠邇有る無く、ことごとく方物を献ずるに、これ服食器用のみ。

ああ。

英明なる王さまが徳を持つようにいつも心がけておられますので、四方の異民族はみな外交を結んでまいりました。遠くからも近くからもすべての国からその国の特産物を贈ってまいります。それらの品々は、みな威服や食物や道具など、利用できるものばかりでございます。

王乃昭徳之致于異姓之邦、無替厥服、分宝玉于伯叔之國、時庸展親。

王すなわち徳の致すせるを異姓の邦に昭らかにして、その服を替うるある無く、宝玉を伯叔の国に分かちて、時(こ)れ庸(もち)いて親を展(の)ぶ。

王さまは、これら、自らの徳によって贈られたものを(同族でない)異姓の国々に示して、かれらの服属の態度を変えさせないようにし、また、宝物のタマを(同族の)伯父や叔父の封ぜられた国々に分け与えて、それによって親族との親しみを広げてまいりました。

ここで注意せねばなりませんのは、

人不易物、惟徳其物。徳盛不狎侮。狎侮君子、罔以尽人心、狎侮小人、罔以尽其力。

人の物を易(か)うるにあらず、これ徳、それ物とすなり。徳盛んなれば狎侮せず。君子に狎侮すれば、以て人心を尽くす罔(な)く、小人に狎侮すれば、以てその力を尽くす罔(な)し。

与えるひと(の地位)が物の値打ちを変えるのではありませんぞ。そのひとの徳が、その物の価値を作り出しているのです。

徳が盛んなひとは、相手を狎れ侮ったりしないものです。立派なひとを狎れ侮ればそのひとは心を尽くしてくれないでしょうし、人民どもを狎れ侮れば、彼らはその労働力を尽くしてくれなくなりましょう。

不役耳目、百度惟貞、玩人喪徳、玩物喪志。志以道寧、言以道接。

耳目に役せられざれば、百度もこれ貞(ただ)しく、人を玩べば徳を喪い、物を玩べば志を喪わん。志は道を以て寧(やすん)じ、言は道を以て接すべきものなり。

耳や目のような外的な感覚にコントロールされない(で内面で考える)ようにすれば、すべてのことは正当になります。ニンゲン相手に面白がれば、徳を失っているといわれましょう。ニンゲン以外の物を面白がれば、心の方向性を失っている、といわれますぞ。心の方向性は道があってこそ安定することができ、言葉は道にたよるこで真実に接することができるもの、であることを忘れてはなりません。

さて、今回巨大なイヌが贈られてまいりましたが、これは我がネコ国としてどう扱えばよいか。

不作無益害有益、功乃成。不貴異物賤用物、民乃足。犬馬非土性、不畜。珍禽奇獣、不育于国。

無益を作して有益を害せざれば、功はすなわち成らん。異物を貴びて用物を賤しまざれば、民はすなわち足りん。犬馬は土性にあらざれば、畜(たくわ)えず。珍禽奇獣は国育せざるなり。

役に立たぬことをして役立つことをそこなう、こんなことをしなければ功績は必ずうまくあがります。変な物をありがたがって日用品をばかにする、そんなことをしなければ人民は満ち足りましょう。イヌや馬は、その土地のものでなければ飼ってはなりませんし、珍しい鳥や奇妙なケモノは、我が国では育てはしません。

まして相手は巨大イヌなのですニャぞ。

不宝遠物、則遠人格、所宝惟賢、則邇人安。

遠物を宝とせざれば、すなわち遠き人格(いた)り、宝とするところこれ賢のみなれば、すなわち邇(ちか)き人安んず。

遠方の物を宝としなければ、(そういう王国には)かならず遠方のひとが通交してまいりましょうし、宝として貴ぶのが賢者だけであれば、近くのひとびとは安心してくれます。

ということで、王さま、

嗚呼、夙夜罔或不勤。不矜細行、終累大徳。為山九仞、功虧一簣。

嗚呼、夙夜にあるいは勤めざること罔(な)けれ。細行を矜(つつ)しまざれば、終には大徳を累(わずら)わさん。山を為すに九仞にして、功を一簣に虧(か)くることあらん。

早朝にも夜にも、もしかしてサボってしまっていることはニャいでしょうニャあ。もしも細かいことまでマジメにやらないと、いつかは(天下を支配するというような)大いなる徳に影響が出てしまいましょう。「山をつくろうとして、九仞まで作っても、あと一もっこ分の土を運ばなかったら、成功したとはいえない」と申しますからニャあ。

允迪玆、生民保厥居、惟乃世王。

允(まこと)に玆(これ)に迪(みち)すれば、生民はその居を保ち、これすなわち世よに王たらん。

ほんとうに、このように進んでくだされば、人民どもはその居るところを安定させることができ、我がネコ王朝な何代も何代も王国を嗣ぐことができましょう。

ニャー!

巨大イヌ「獒」は追放するのですニャー!

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「尚書」(書経)周書・旅獒第七

〇「玩物喪志」(物を玩べば志を喪う)

〇「為山九仞、功虧一簣」(山を爲りて九仞なるに、功を一簣に虧(か)く)

などの語源になっているすばらしい章ですが、実はもともとの周書「旅獒」篇は早くに散佚してしまい、今見られるこの文章は六朝時代につくられた偽作であるとされております。

それはそうでしょう。ニンゲンなら巨大なイヌも飼いたいと思うかも知れませんが、ネコの国だから、イヌは絶対に追放です。ネコの国の書ですから、ニンゲンから見たら偽作に決まってますニャあ。そしてこれを最後にネコは口をつぐみますのでニャあ。さようニャら。

 

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