平成29年7月21日(金)  目次へ  前回に戻る

時速20キロ以下で安全、初乗り10円で低価格、ただし目的地を告げても別のところに行ってしまう問題タクシーぶたタク。ぶたタクに乗ってどこかに行ってしまおう。

やっと週末。

本日、肝冷斎、ついに失踪しました。家を出たけど会社には来ず。あれだけツラいツラいと言ってたのに誰も話を聞いてあげなかったのですから仕方ありません。

肝冷斎が失踪時に会社に送ったメールは以下のとおり(その後、当該アドレスは取り消された模様です)。

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閑来無妄想、 閑来、妄想無く、

静裏多情況。 静裏に情況多し。

 なんにもしないでいると、よしなしごとを考えることもなくあり、

 じっとしていると、いろんな物事の状態がよくわかってくる。

それで、ついにわかりました。

物情蟷捕蝉、 物情は蟷の蝉を捕らえんとするがごとく、

世態蛇呑象。 世態は蛇の象を呑むがごとし。

この二句は解説が要りますね。

〇蟷捕蝉(カマキリがセミを捕まえようとする)

・・・セミが悲しげに鳴き露を飲んでいるとき、その背後からカマキリがセミを狙っていた。そのカマキリの背後からは黄雀が狙っており、その黄雀をまたひとが弾き玉で狙っていた・・・という「説苑」正諫篇のお話(詳しくはこちら→「蟷螂取蝉」)から、弱者を強者が狙っているのだが、その強者の背後にはまたさらなる強者がいて、この世は危険に満ち満ちているのだ、という喩えである。

〇蛇呑象(ヘビがゾウを呑み込む)

・・・巴蛇というヘビはゾウを食べてしまい、三年かけて消化してその骨を排泄する・・・という「山海経」海内南経の記述(詳しくはこちら→「巴蛇」)から、欲望につかれた者は満足を知らず、際限なく貪ろうとするということの喩えである。

 この世の仕組みというのは、カマキリがセミを狙っている(がその背後からはまたさらなる強者が狙っている)というように、果てしも無い弱肉強食なのだ。

 人間たちのありさまというのは、ヘビが消化に三年もかかるゾウを呑み込んでしまうように、限度の無い欲望を果たそうとしているものなのだ。

そこでおいらも考えた。

直志定行蔵、 志を直くして行蔵を定め、

屈指数興亡。 指を屈して興亡を数う。

「論語」述而篇にいう、

子謂顔淵曰、用之則行、舎之則蔵。惟我与爾有是夫。

子、顔淵を謂いて曰く、「これを用うればすなわち行い、これを舎(お)けばすなわち蔵(かく)る。ただ我と爾とのみ是れ有るかな。

先生が顔回についてこうおっしゃった。

「そのひとを用いようとすれば「はいはい」と働き、そのひとを放っておこうとすれば「はいはい」と引っ込んでしまう。これはわしとおまえぐらいにしかできることではないよな」

と。

このコトバに当の顔回がどう反応したかはわかりません。これに続けて子路が横から文句を言って孔子に諭される、という会話が記録されていますが、それはまたいつの日かお話いたしましょう。

「行蔵」と続けたときの「行」と「蔵」とは表に出てハタラク、引退して引っ込んでしまう、ということです。

 自分の心に素直に、ハタラクか辞めてしまうかを決めることにした。

 指を折って王朝の興亡が数えられる(ように、世の中の盛衰は甚だしいので、一つの勢力・会社に忠義を尽くしてもしかたない)。

ということで、シゴトを辞めて失踪します。

都会を離れて、

湖海襟懐闊、 湖海に襟懐闊(ひろ)く、

山林興味長。 山林に興味長(とこし)えなり。

 湖や海にやってくれば、着物のえりとふところはくつろげることができ、

 山や林の中では、楽しいことがいつまでも続くのだ。

隠者の生活は、

壺觴、夜月松花醪。 壺觴には、夜月に松花醪(ろう)し、

軒窗、秋風桂子香。 軒窗には、秋風に桂子香る。

夜、月の下に壺やさかずきを持ち出して、松の花を醸した酒を飲み、

秋、風の吹き来る窓べでは、木犀の花の香りに酔いしれる。

うっしっし。

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これは実は、元・汪元亨双調、雁児落過得勝令。帰隠」(双調の、「雁がねは落ちる」の節、その後「ゲームに勝った」の節で。「失踪して隠者になろう」の歌)二十首中の第二首です。失踪の喜びをバクハツさせた小令(短編の「曲」)の名作で、特に棄てさるべき俗世を描写した「物情 蟷は蝉を捕らえんとし、世態 蛇は象を呑む」の二句は有名である。

それにしても肝冷斎の教えを受けることはもうできないんだなあ。惜しいことをしたなあ。

 

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