平成28年12月30日(金)  目次へ  前回に戻る

「わーい、取れてしまったでぶにぶに〜」。新たな自分の姿にうれしそうなアンコウくんだ。われらも古い年を棄てて新しい年を迎え、変化していく。めでたいことである。

今日駅に行ったらたくさんニンゲンがいました。ああコワかった。しかし、あんなにたくさんいたら、↓替わりにふさわしいやつもたくさんいそうだなあ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あるところに小さな川に架かった橋があり、そのかたわらに土地神の小さなお堂がありました。

ある晩のこと、堂守(「廟祝」)は誰もいないはずのお堂の中で、誰かが土地神に語り掛けているのを聞いた。

曰く―――

明日有替代人矣。

明日、替代人有るなり。

「明日、替わりのひとが来ることになっているんです」

堂守はそっとお堂の中を覗いてみたが、誰もいない。そこで、この声は幽霊(「鬼」)の声であると知れた。

(水死した人の霊は替わりが来るまでそこから離れられないと聞く。おそらく近くの川で水死したひとの霊なのであろう)

こういう交代の人を死なせてこちらに引き込もうとする霊のことを「討替鬼」(替わりを待つ霊)と申します。

堂守は翌日、

候於河浜、将拯溺者。

河浜を候(うか)がい、溺者を拯(すく)わんとす。

川べりを注意深く見張っていた。溺れそうな人がいたら助けてあげなければ、と思ったのである。

昼頃、

見一少年濯足於河、無恙而返。

一少年の河に足を濯うを見るも、恙無くして返れり。

子供が一人、川に足を洗いにきたので、(こいつかな)と思ったのだが、何ごともなく帰っていった。

結局、この日、誰も水死しなかった。

夜、お堂の中から、

聞土神問鬼曰、何不捉替去。

土神の鬼に問うて、「何ぞ捉(とら)えて替去せざるや」と曰うを聞けり。

土地神が幽霊に、「どうして(あいつを)ひっ捕まえて、交代してここを脱け出さなかったのじゃな?」と質問しているのが聞こえた。

幽霊は答えた、

其母老、殺之則母必相従以死。某不忍其母子倶亡也。

その母老いたり、これを殺せばすなわち母必ず相従うに死を以てせん。某、その母子ともに亡するに忍びざるなり。

「あの子は母一人子一人で、おふくろさんは年老いているんですよ。もしあいつをコロしたら、おふくろも追っかけてきて自殺してしまうと思ったんです。おいら、親子セットでコロしてしまう気にはなれなかったんで・・・」

「それではどうするのじゃ?」

明日有婦人来替代矣。

明日、婦人の来たりて替代する有らん。

「明日、きゃぴきゃぴ女が来ますから、そいつと交代しますよ」

・・・翌日、堂守がまた注意していると、午後おそくになって、

果見一婦人過橋。

果たして一婦人の橋を過ぎるを見る。

はたして、若い女が一人、きゃぴきゃぴと橋を渡ろうとしているのが見えた。

そのとき、ああ、なんということでございましょう。ひゅう、と一陣の生暖かい風が吹いて、おんなの髪を結んでいた頭巾が川の中に落ちたのでございます。

「きゃぴー!」

女は急いで橋のたもとから川べりに降りて、そこに浮いている頭巾を、なんとかして掬いとろうとした。

(危ない!)

と堂守が駆けつけようとしたとき、

「おほほ、とれました」

女は頭巾をすくい上げ、ぎゅぎゅ、と絞って頭に巻き付けると、

「おほほ、おほほ」

と無事に橋を渡って行ったのであった。

夜、また土地神が訊ねた。

「また逃がしてしまったようじゃな」

幽霊は答えた。

此婦有双胎在腹。一挙手而戕三命、吾豈忍哉。終当更伺良便耳。

この婦、双胎腹に在る有り。一挙手にして三命を戕(そこな)うは、吾あに忍びんや。ついにまさに更に良便を伺うべきのみ。

「あの女、ああ見えておなかに双子を身ごもっていたんです。いっぺんに三つも命を奪ってしまうなんて、おいらにはできませんよ。そのうちまたいいのが来るでしょうから、それを待ちます」

・・・次の日の夜、堂守がうとうとしていると、どこかから、はじめはかすかに、やがてはっきりと、

有鼓楽騎従之声、喧填而至。

鼓楽、騎従の声有りて、喧填して至る。

行進の拍子をとる太鼓の音が聴こえ、さらに馬のいななきや従者たちの足音が聞こえてきて、騒がしく堂の中に入って行った。

しばらくするとまた太鼓の音と馬・従者の足音が聞こえ、今度はどこかに遠ざかって行った。

その音が静まったあと、土地神の声が聞こえた。

上帝憫爾一念之善、勅爾為此地社神。

上帝なんじの一念の善を憫れみ、勅してなんじをこの地の社神と為す。

「天帝さまのお使いがお見えになった。おまえのちょっとした善意を御理解くださって、おまえをこの地の土地神に任命されたのじゃ」

幽霊がびっくりしたような声で

「は、はあ? ここの神さまに? で、では、土地神さまは?」

土地神はいかにも楽しそうに、

「そうじゃ。これでやっとわしの替わりができた、というわけじゃ、わははは、めでたいことじゃなあ」

とお笑いになったのでございました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

明・銭希言「獪園」第十三より。

ああ、めでたいことだなあ。年も明日で交代でございます。今年は前半はダメダメでヒドイ年だったが途中からはそこそこよくなった。来年は真からめでたい年になりますように。ただし電波の届かないところにいるので、みなさんの目にこの更新結果が見えるのは、もう新年になってからだと思いますけど。

ではでは。

 

次へ