明日は恐ろしい二人組にやられるかも。おいらは大丈夫だが、みなさんが。
明日はとうとう月曜日。なんとか無事に一日過ごせるといいなあ・・・。
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明の萬暦年間のことにございます。浙江・呉県の北寺の塔内で、道士たちが天帝を祀る壇の前で、恭しくお香を焚いたりお酒や供物を捧げたりしておりました。一段下がったところには中年の夫婦が坐して、深々と祈りを捧げている。この夫婦はこの近くで居酒屋をやっている王氏夫妻でありました。
儀式がだいぶん進んだところで、一人の道士が祭壇の前にひざまずき、深々と礼拝を繰り返している・・・うちに、
伏壇下、奄然如逝。
壇下に伏し、奄然として逝けるが如し。
壇の下にうつ伏せに伏したまま、動かなくなってしまって、まるで死体のようであった。
「少し長すぎるな」
他の道士たちは次の儀式に入れず、互いに顔を合わせた。
良久方起、喘息流汗、勅諸道士。
やや久しくしてまさに起ちて、息を喘がせ、汗を流して、諸道士に勅せり。
道士はもうしばらくそうしていたが、突然立ち上がった。そして、息を喘がせ、汗をだらだらと流しながら、同僚たちに向かって、すごい剣幕で命令したのであった。
「時間が無いぞ!
速収拾醮場、雷神至矣。
速やかに醮場を収拾せよ、雷神至らん。
早く祭壇を片付けるんじゃ! 雷神が来るぞ!
天帝震怒此事、追訊十三年前直日功曹為誰、何得不挙謫罰、俾其漏網。亟命雷神下撃此夫婦、而道士亦被訶責無地矣。
天帝この事を震怒し、十三年前の直日功曹を誰と為すか、何ぞ挙げて謫罰せず、その網を漏らさしむを得るや、追訊せんとす。ついに雷神に命じてこの夫婦を下撃し、而して道士また訶責を被ること地無きなり。
天帝さまが、今回のことでどえらいお怒りなんじゃ! 十三年前の日直班長の道士が誰であったか、そいつはどうして見つけて罰を与えず、網から漏らしてしまっていたのか、過去のことを訊問しようというのじゃ。そして、雷神にお命じになられて、この夫婦をお撃ちになるのはもちろんのこと、わしら道士もまたお叱りを受けることになったのじゃ!」
「な、なんですと!」
この日はたいへん天気晴朗であったが、
忽有雷声殷殷、自北而至、頃之漸迅、電光駭空、見二雷神従屋而下。
忽ち雷声有りて殷殷として北より至り、頃之に漸迅にして電光空を駭(おどろ)かし、二雷神の屋より下るを見たり。
突然に雷鳴がどろどろと北の方から響いて来て、あっという間にいなびかりが空を駆け、二人の雷神が屋根の上からお下りになってくるのが見えた。
その瞬間――――
!
周囲が真っ白になり、
霹靂一声。
霹靂(へきれき)一声す。
激しい落雷の音が耳を聾した。
しばらく光と音で、道士たちは何も見えず何も聞こえなかったのである。
・・・しばらくすると、目が見えるようになった。続いて、お互いのコトバも聞こえるようになった。そこで周囲を見回すと・・・
目の前の祭壇は壊されており、王夫婦は
撃死於地。朱書其背跡甚分明。
地に撃死したり。その背に朱書せる跡、甚だ分明なり。
雷に打たれて真っ黒になって地面に転がっていた。もちろんもう息は無い。二人の背中には朱色で文字のようなものが書きつけてあるのがはっきり読み取れた。この二人が狙われたのである。
また、老齢の道士が一人巻き添えになって倒れていたが、こちらは息があり、やがて気を取り戻した。命にかかわるようなことは無かったが、雷撃のショックで足が立たなくなっており、回復するまでには半年以上もかかったのであった。
最初に叫んでいた道士によると、彼は意識を失っているとき、天帝の前に出て今回の王夫婦からの祈りのコトバを取り次いでいたのだそうだ。
その祈りとは何か。
十三年前、王と、その当時は王の隣家の某乙という男の妻であった王の婦人とは、
密訂期於北寺塔中、反鑰其戸、白昼裸而淫焉。
密かに期を訂して北寺の塔中において、その戸を反鑰して、白昼裸して淫せり。
ひそかに約束しあって、北寺の塔の中に入り、中からカンヌキをかけて、真昼間から裸になりあってエッチをしていたというのである。
その後、
未幾乙死、因媒説合、娶婦為妻。
いまだいくばくならずして乙死し、媒の説合に因りて婦を娶りて妻と為せり。
しばらくして某乙が死んでしまった。なかだちして因果を含める人があって、王は隣婦を娶って妻としたのであった。
それから十三年、二人ははじめちいさな店を出して、それからようよう店を広げ、今となってはそこそこに豊かになった。
先だって、
両人露坐納涼、私相謂。
両人露座納涼して、ひそかに相謂えり。
二人は外で夕涼みしながら、そっと語り合った。
「おまえとあの塔で睦み合うたのが、昨日のことのように思い出される。一度あの塔の中でお祀りをして、祀られている神さまにあのときの失礼をお詫びしなければ、と思ってきたのじゃ」
既有此願、何不了之。
既にこの願あり、何ぞこれを了せざらん。
「あたしもおんなじことを思っていたのさ。あんた、やろうよ」
ということで、吉日を択び、三十六の供物をささげて、
上於天帝、懺除罪過。
天帝に上(たて)まつり、罪過を懺除せんとす。
天帝に献上して、過去のあやまちを懺悔してお祓いしようとしたのであった。
「それで、天帝はそんなことが十三年前にあったことを初めてお知りになり、罰を与えたのじゃ。老道士は確か当日の塔の管理当番だったのであろう」
・・・ということでおしまい。
なお、王夫婦には二人の子供がいたそうですが、
自此家計蕭条、子女皆流蕩焉。
これより家計蕭条とし、子女みな流蕩せり。
これ以降、王家はもちろん没落してしまい、息子と娘はどこにどうもらわれて行ったやら。
これらは友人・蔡文源が、その道士たちも王夫婦も知っており、落雷の現場も直接に見に行った、ということで、わしに話してくれたことである。
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明・銭希言「獪園」巻十一より。
十三年前のことなんか覚えてないけど、さすがに冬はハダカで歩いてなかったと思いますので、おいらは明日は大丈夫か。冬にハダカでいたことのあるみなさんは気をつけてね。