イヤなことから逃げ出すには、クマのように冬眠してしまうか、地下に潜ってしまうか・・・。
やっと木曜日が終了。あと一日だが、明日がキツい。夜も含めて・・・。
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なにごともイヤなことばかりにございます。
身辺百事乱如麻、 身辺の百事、乱れて麻の如く、
但覚匆匆歳月加。 ただ覚ゆ、匆匆として歳月の加うるを。
身の回りに起こること、なんでもかんでも麻の乱れて生い茂るように、無茶苦茶である。
ただ一つだけ、はっきりとわかるのは、歳月が早々と過ぎておれが年をとっていくことばかり。
だんだん焦ってくるなあ。
机上曲肱聞雨処、 机上に肱を曲げて雨を聞くところ、
夢揮宝剣斫長蛇。 夢に宝剣を揮いて長蛇を斫(き)れり。
机の上で、肘を曲げて(頭を乗せ)、雨の音を聞きながらぶうすか居眠りしてしまったが、
夢の中でおれは(漢の高祖が白いヘビを斬ったように)飾りのついた剣をふるってでかいヘビを叩き斬ったのだ・・・が。
「論語」述而篇に曰く、
子曰、飯疏食飲水、曲肱而枕之。楽亦在其中矣。不義而富且貴、於我如浮雲。
子曰く、疏食(そし)を飯(くら)い水を飲み、肱を曲げてこれに枕す。楽しみまたその中に在り。不義にして富みかつ貴きは、我において浮雲の如し。
先生がおっしゃった。
「粗末な飯を食い、水を飲み、肘を曲げてこれを枕にして寝る。(貧しい生活だが)その生活の中にこそ、楽しみがあるのだ。ああ貧乏は楽しいなあ。正義に外れたことをして金儲けをし高い地位に就く―――わしから見れば、そんなものは流れいく雲のように不安定で意味の無いものである」
「肱を曲げ」て眠っている、ということから、作者は「自分は正義に外れて財産や地位を求めようとはしないタイプの人間なんです。ああ、貧乏は楽しいなあ」という意思表示をしているんですな。
さて、漢の高祖ははじめ亭長という卑職にあったが、秦皇帝の命を受けて労役に従う人夫を護送していく途中、期限に遅れてしまう。期限に遅れれば人夫も護送役人も死刑になる定めであったので、高祖は「わしは逃げるぞ」と逃げ出してしまった。その豪気に感心して数人の者が後に従ったが、ある晩、沼のほとりで大蛇が横たわっているのに出会い、これを二つに斬って前に進んだ。
遅れて来たものがヘビの死骸のところまで来ると、そこで老婆が泣いている。
「どうしたのか」
と問うと、
「わしの子は白帝の子で、ヘビに化身していたとき、赤帝の子が斬って殺したのである」
と答えた。
彼らは高祖に追いつき、老婆の話したことを話すと、高祖は
「そのヘビはおれが斬ったのだ」
と言った―――。
「史記」高祖本紀にある有名な「高祖赤帝子説話」(→「斬蛇剣」)でございます。
作者は、正義に外れて富貴は求めない、と言いながら、ヘビを斬って天下をとるようなでかいことをしてやる、と思っているんです。いかにも明治の人らしい、立身出世の野望あふれるひとである。
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幸徳秋水「偶成」。この詩は明治二十二年、秋水十八歳の作。出世したかったんでしょう。おいらも十八のころはいろいろ夢もあったなあ。しかし今は身辺のことすべて麻の如く乱れてイヤになりました。やはり地下に潜ろう。