平成28年11月27日(日)  目次へ  前回に戻る

ドウブツたちもウツ。明日はたいへんなことになるのだ・・・。

―――ここに、必ずいるはずじゃ。

わしは呪文を唱えて杖の先に魔法の火を灯すと、それを頼りに暗い洞窟の中に入り込んだ。

群れ騒ぐ蝙蝠、ときどき頭をがつんとぶつけてしまう鍾乳石、背中にぴしゃりと水滴が落ちる。手をついたところで目の無い虫をぶちゅ、と潰してしまった・・・りしながら、小半時も進むと、鍾乳石に囲まれた広間に着いた。その広間の床には、確かに魔法陣が描かれている。

「なるほど、この魔法陣の中に隠れた、というわけか。やつにしてはよく考えたものよ」

わしは、その魔法陣を仔細に調べた。

「北西の側に歪みがあるな。やつはそこに潜んでいる―――」

杖を高々と上げて、呪文を唱えた。

 なんじの重荷を淵に投ぜよ。

 人間よ、忘れよ。人間よ、忘れ去れ。

 忘却のすべこそ神々の下されしものなり。

 なんじ高きところに住まわんとすれば、なんじの一番重きものを淵に投げ入れよ

 淵になんじを投げ入れよ

 神々の下されしものは、ただ忘却のすべなれば―――(※)

突然、わしの前をまるい肥ったものの影が掠め過ぎようとした。

「見つけた! やはりここにいたのじゃな!」

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と、ファンタジーは楽しいなあ。

今日は日曜日の夜、落ち着いたキモチで暖炉の側で、ファンタジーでも読んでみまちょう。ただし明の時代の漢字ばっかり読んでいるおじさんたちの、ですけど。

東斉・歴城の郷校の先生であった王勅というひとは、道教の不思議な術を知っている、というので有名であった。

若いころのこと、臥牛山という山で勉強していたとき、

与一僧為道侶。毎晨炊将熟、相与携筺同登高巌、採摘蔬菜薬草之属。

一僧と道侶たり。毎晨、炊きて熟せんとするに、あいともに筺を携えて同じく高巌に登り、蔬菜・薬草の属を採摘す。

僧侶と共同で修行生活をしていた。毎朝、飯を炊いて、炊き上がろうとするころには、「さあ行きまちょー」と、二人で竹の籠を持って高い岩の上に登り、そこで食用の植物や薬草を採るのが常であった。

そして、いつも僧に先に戻らせるのであるが、僧が住居に戻ると、

王却自内出、与開鍵。

王かえって内より出でて、ために鍵を開く。

王勅が中から出てきて、扉の鍵を開けてくれるのであった。

「いつもこうだから最近ではあまり気にしておらぬが、どうしてお前さんの方が先に戻っているのかのう?」

と、

僧訝而叩之。

僧、訝しみてこれを叩く。

僧侶は、不思議に思って質問した。

すると、

吾従間道還也。

吾、間道より還るなり。

「おいらは近道を通って来まちたのでちゅよ。不思議なことは何もないのでちゅよ」

と答えたのだが、そんな道が無いことは、二人ともわかっていて、お互いにやりと笑いあうのであった。

・・・さて、勉強も終わり、王勅は都に出て試験を受けて合格した。

はじめ翰林院にいたのですが、しばらくして地方の学校の先生に赴任しました。

一日集校諸生、遥見白雲一片起山頂上、急馳両騎、戒疾駆。

一日、諸生を集めて校するに、遥かに白雲の一片、山頂上に起こるを見、急ぎて両騎を馳せるも、疾駆を戒しむ。

ある日、学校の生徒たちを集めて教えていたのだが、遠い山の頂上に一片の白雲が涌いたのを見て、「わーい、行きまちゅよ」と、自分と、もう一人の生徒のふたりで馬に騎って出かけた。

そのとき、「まあまあ、そう急ぎなちゃるなよ」とゆっくり行くように命じたのであった。

やがて、

数里、視雲落処、断之。

数里にして、雲の落つるところを視て、これを断つ。

1〜2キロ行ったところで、雲が落ちてきた。「ここに落ちて来まちたか」と、王勅はその雲の端っこを刀で切った。

がらん、がらん。

得白石子数升、円瑩如雪。

白石子数升の、円瑩なること雪の如きを得。

雲は白い石ころに変化した。円くてぴかぴかと雪のように輝くのが、数リットルも採れたのであった。

「これを持って帰りまちゅよ」

と二人で拾って持ち帰ってまいりまして、

命庖人剉砕、煮成腐羹、遍召諸生食之。

庖人に命じて剉砕し、煮て腐羹と成し、諸生を遍く召してこれを食らわす。

料理人に命じて粉末にさせ、湯で煮てどろどろのスープにし、学生たちを全員招待してこれを食わせた。

クリームシチューのような外貌であったが、

甘美殊常。

甘美、常に殊なり。

ちょっと普通でないぐらい美味かった。

「これ、うまいっす」

「たまんないっすよ」

諸生請問何薬、王曰、此雲母也。

諸生、何の薬なるかを請問うに、王曰く、「これ雲母なり」と。

学生たちが「これは何のスープなんすか?」と教えを請うと、王勅答えて曰く、「これこそ雲母(うんも)なんでちゅよ」と。

その年、学生たちの中に一人として体調を崩す者は出なかったという。

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明・銭希言「獪園」第八より。この魔法使い王勅のファンタジー、まだ続きます。明日(以降)をお楽しみに〜。

―――洞窟の中、突如現れて、わしの松明の前で不安げに怯えているのは、誰あろう、地下に潜って久しい本家・肝冷斎そのひとであった。

「くっくっく、やっと見つけましたぞ、御本家」

「な、なにを言っているのでちゅか(ゴワ)、おいらは洞のほら蔵と申す名も無き者にござりまちゅるが(ゴワゴワ)・・・」

そいつは新聞紙の服を着ているので、動くたびにゴワゴワいうのであった。

「ええい、未練であろう、肝冷斎。よいか、明日の月曜日は朝からすごいツラい仕事があるのだ。職場からも明日は絶対出てこいとのお達し。しかし一族はみな誰も行こうとしない。こうなってはお前を行かせるしかないのじゃ!」

ああ、なんという非道な一族の掟であろうか。

※フリードリッヒ=ニーチェ「デュオニソス頌歌」より。

・・・ということです。明日はすごいツラいんです。明日帰ってこれたらまた更新も出来ましょうが、絶対にムリなんですなあ。人生に諦めがつきましたなあ。

みなさん、さようなら。

 

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