ガジガジかじられるのも生き物の定めなり。お偉方にかじられるよりはええじゃないか。
胆冷斎もいなくなったし、われらが一族と社会との関係はこれで断絶したといえよう。
・・・・・・・・・・・・・・
荘子が死にかけていた。
弟子たちは葬儀の相談をしていた。
それを聞いて、荘子が言う、
吾以天地為棺槨、以日月為連璧、星辰為珠璣、万物為賷送。吾葬具豈不備邪。何以加此。
吾は天地を以て棺槨と為し、日月を以て連璧と為し、星辰を珠璣と為し、万物を賷送と為す。吾が葬具あに備わらざらんや。何を以てこれに加えんとする。
わしは天地を棺桶に、太陽と月を掛ける璧(円形の玉製品)、星と星座を飾りの珠(球形の玉製品)、世界の万物すべてを供え物にすることにしておる。わしの葬式道具はすべて備わっているではないか。この上なにを加えようというのか。
―――弟子は言った、
吾恐烏鳶之食夫子也。
吾、烏鳶の夫子を食らうを恐るるなり。
わたしどもは先生の御遺体がカラスやトンビにかじられるのを恐れております。
―――荘子は言った、
在上為烏鳶食。
上に在りては烏鳶の食らうと為す。
上からはカラスやトンビにかじられるのだ。
しかし、それをいやがって地中に埋めれば、
在下為螻蟻食。
下に在りては螻蟻の食らうと為す。
下からはオケラやアリンコにかじられるのだ。
奪彼与此、何其偏也。
彼を奪いて此れに与う、何ぞそれ偏なる。
カラスやトンビからとりあげて、オケラやアリンコに与えるとは、えこひいきじゃぞ。
―――と言いまして、亡くなったのでございました。
・・・・・・・・・・・・・・・
「荘子」列御寇篇より。
というように、天地の間に暮らしているのですから、わざわざニンゲンたちに限定した社会と関係しなくてもいいのだ。我が一族からは、明日から会社なんかもう誰も行かないぞー!みんな楽しく暮らすんだー!