敵機「来週」になると絶望的戦況か・・・それでも六月までよりはマシかも。
終末。今週は問題がいくつか出て絶望的だが、絶望そのものは来週することにした。来週が来ませんように。
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清の時代のことである。
山西の某というのは郡内一の富豪であるが、目に一文字もなく、官位を持っていないことが不満であった。
ところがあるとき、財政難に対応するため朝廷で官職を売りに出すらしいという情報が入ったので、「そこそこの官職を手に入れて来ることにしよう」と、郡中のひとを集めて自ら壮行会まで開いて、都(北京)に出かけた。
途過一小招提、門首粘三尺紙、書老鉄嘴善相富貴。
途に一小招提(しょうだい)を過ぐるに、門首に三尺紙を粘して、「老鉄嘴(ろうてっさ)、善く富貴を相す」と書す。
途中、小さなお寺を通りかかったとき、その門に三尺の紙を貼りつけて、「老いたる鉄の口、人相で未来を占って進ぜよう」と書いてあった。
「老鉄嘴」(老いた鉄の口)というあだ名の優れた人相見がいる、というウワサは聴いていた。そのひと、人相を見る能力は高いのだが、あまりにも歯に衣を着せずに占いの結果を正直に依頼者に告げるので有名であった。甘いコトバで誤魔化さない、きついことを言う、というので「鉄の口」と呼ばれていたのである。
「何かの参考になるかも知れん」
と思って、某は車を止めさせ、寺の門をくぐった。
取次など誰もいない荒れ寺であったが、本殿に老人が一人、じっと座っている。
「あなたが老鉄嘴どのかな」
「さよう。占って進ぜましょう」
其人諦視良久。
そのひと、諦視することやや久し。
そのひとは、某のすがたかたちをしばらくじろじろ見ていた。
が、やがて語りだした。(原文略)
「おまえさんは額のあたりには清々しい雰囲気もあって、それが肌にしみこんでいるので、本来なら軽い文章ぐらいは作れる才能があるのかも知れんな。しかし、飢餓にさらされるしるしがあるので、いずれは凍え飢えることになるだろうなあ。・・・と思ったが、これは幸いなことに、体中が低俗な骨でできており、目・鼻・耳・舌・触覚、いずれも濁っておるおかげで差し引かれて、まぶたは犬のようであり、背筋は牛のようであるから、文字は一つも知らなくても、銅山を持つぐらいは豊かになれるぞ」
「そ、そうですか。実は
以援例求官、功名可否顕達。
援例を以て官を求むるに、功名顕達すること可ならんか否か。
政府支援の拠出をして官職をもらおうと思っておるのだが、どれぐらいの地位、官職を得られそうな人相であるか、教えてくだされ。」
「わははは。そうですか、そうですか。それでは答えますぞ。
財旺生官、雖天道常理、但麞頭鼠目、観瞻豈足為民上者。顧妄求耶。
財旺(さか)にして官を生ずるは天道の常理といえども、ただ麞頭・鼠目、観瞻するにあに民の上者たるに足らんや。妄求を顧みんや。
お金が出来ればそれを元手に役職を得る―――なるほど天の摂理に沿ったお考えじゃ。しかるにあなたは、ノロジカのようなぼんやりした頭で、ネズミのような強欲な目、どうみても人民たちの上に立つお方ではございますまい。少し反省すれば、よこしまな望みだ、とおわかりになりませんかな?」
「なんじゃと!」
某はさすがに頭に来て、
「わしを誰だとおもっているのか!」
大怒、掌其頬、倐滅地下。
大いに怒りて、その頬を掌せんとするに、倐(しゅく)として地下に滅す。
激怒して、老鉄嘴の頬に平手打ちを食らわそうとした ―――その瞬間、鉄嘴は床に吸い込まれるように消えてしまった!
「な、なんだ?」
某は茫然として寺を出てきた。
訊問土人、老鉄嘴已死半月。
土人に訊問するに、老鉄嘴、すでに死して半月なり、と。
そのあたりの村人をつかまえて訊いてみたところ、
「はあ。老鉄嘴さまは、もう半月前に亡くなりましたがなあ」
と言うのであった。
都に到着してみると、確かに買官の募集はあったがもう締め切りが過ぎていた。手ぶらで戻ったのでは地元でどんな陰口を叩かれるかわからないので、あちこちに賄賂を贈って手を尽くしたが、ようやくお金で買える最低の地位である監生の職を得ることができただけであった・・・。
この話を支鏡軒先生に申し上げたところ、先生がおっしゃるには―――
老鉄嘴乃其梓郷、文水人、忘其姓字、論相不諛、以淹蹇死。其直談忤客、至死不変、誠不負老鉄嘴之名也。
老鉄嘴はすなわちその梓郷、文水のひと、その姓字を忘れたるも、相を論じて諛らわず、以て淹蹇して死す。その直談して客に忤らうこと、死に至るも変ぜず、まことに老鉄嘴の名に負(そむ)かざるなり。
「老鉄嘴は、わしの同郷で、文水のひとである。その姓や字は記憶していないが、人相を論じると誰にもへつらうことなく、そのせいで生活に苦しんだまま死んでしまった。それにしても、その包み隠さず、依頼者の機嫌を害ってでも占いの結果を告知するスタイルは、死んだあとも変わらなかった、ということだ。ほんとうに「老いたる鉄の口」の名にそむかないことではないかね」
と。
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清・朱海「妄妄録」巻十より。
来週には絶望に至ることは「老鉄嘴」のような能力者ではなくても、誰の目にも明白なのです。だが、そうは口に出さないでくれ、という現状。オブラートは美味しいなあ。