夏も過ぎたんでそろそろ滝つぼの家に帰るでカッパ。社会は厳しいのでおいらなんかに生きて行く余地は無さそうだし・・・。
わしは肝冷斎の留守番をして、仕事にも駆り出されている胆冷斎でございます。
と、
うひゃああああああ!
先ほどカレンダーを見て気づいたが、いよいよ明日は来週。刻々とハメツが迫ってまいりました。
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明日への不安にシビレておりますわしのもとに、行方をくらましている肝冷斎からと思われる、一通の手紙がまいりました。それによりますと・・・
―――おいらは、
一月住西湖、一月鑑湖。
一月は西湖に住し、一月は鑑湖にあり。
先月は蘇州の西湖のあたりをうろうろしておりましたが、今月は鑑湖のあたりにおりますよ。
非常に景色も風光もよろしい。
野人放浪丘壑、怡心山水、一種閑淡、不敢軽易向官長道、恐冷却人宦情、当奈何。
野人、丘壑を放浪し、心を山水に怡(たのし)ましめ、一種閑淡にして、あえて軽易に官長に向かいて道(い)わず、恐るらくは人の宦情を冷却すれば、まさにいかんせん。
自由人(であるおいら)は、丘や山を放浪し、山や川の景色に心を楽にさせております。なんとなく閑で淡白なキモチになっていますよ。あ。いけね。勤め人の方にはこのキモチを軽々しくはお話しないようにしないと、宮仕えするひとのキモチを冷やして、やる気を無くさせてしまってはいけませんからねー。
うっしっし。この生活は止められんわ。
おいらはこれからどうするか?
弟前路未知向何処去、唯知出路由路而已。
弟、前路いまだ何処(いずこ)に向かいて去らんとするやを知らず、ただ、路を出でて路に由るを知るのみ。
おいらはこの先、どこに行こうか―――おいらにもわかっていません。ただ、旅の途上から旅の途上に移るだけなのだろう、と予測するばかりです。
当分、そちらには戻りませんからね。
山行之忙、忙於作官。草草奉覆、不多及。
山行の忙は官を作すよりも忙わし。草草に奉覆し、多及せず。
山中をあちこち放浪するのに忙しくて、お勤めをするよりも忙しいんですよ。そこで急いでこの手紙を書いたので、あまりいろんなことには触れられませんでした。
では。
ばいばい。
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怪しからん! ふざけおって・・・・と思って、よくよく見たら、差出人は肝冷斎ではなくて、明・袁中郎の「与孫心易」(孫心易あて)のお手紙でした(「明人小品集」所収)。失礼しました。
依然として肝冷斎の行方はわからぬままである。