美しき天然よ。これに比べてニンゲン世界は汚れているぜ。
明日は海の日ではないので、出勤だそうです。もう二度と来ないと思っていた平日がまた来るとは・・・。
この三日間での体重増とも相まって、もはや現世には絶望した。おらは世間に復讐するため、あまりにも恐ろしい話をすることにした。ひっひっひ。食事中のやつをはじめみんなイヤなキモチにしてやるぜ。
・・・・・・・・・・・・・
清の時代のこと。
上海の徐半園は、友人を訪ねて蘇州の地に赴いたのだが、その地で西湖の風光に感動し、しばらく逗留するために無人の家を借りることにしたのであった。
だが、旅の生活で水が合わなかったのであろうか、
偶患痢。
たまたま痢を患(わずら)う。
ちょうどそのとき、下痢になってしまった。
腹を壊しましたので、何度も何度も便所に行く。ところが、
毎如厠、隠聞千百人嘈嘈罵詈声。
厠に如(ゆ)くごとに、千百人の嘈嘈(そうそう)と罵詈するの声を隠聞す。
便所に入ると、そのたびに、何百人、あるいは一千人ものひとびとが、ざわざわと怒っている声が、どこからともなく聞こえてくるのである。
その声はどこか遠くから聞こえてくるかのように微かであった。
離厠即寂然。
厠を離るれば即ち寂然たり。
便所から出てくるとまったく聞こえないのであった。
(いったいこれは何であろう)
心怪之。
心にこれを怪しむ。
非常に不思議なことに思った。
その声の出どころを確かめたくて、あるとき便所に入る際に耳たぶの後ろに紙を張り付け、よく音声が聞こえるようにして、しゃがみこんでみたのである。
傾耳細聴。
耳を傾けて細かに聴く。
耳をかたむけ、仔細にその声を聞いてみた―――。
「なんと!」
すると、驚くべきことがわかったのである。
声従厠蛆出。
声は厠の蛆より出づ。
声は、便所のつぼの中にうごめいている、無数のウジムシたちが出していたのだ。
そして、その内容は、
詈其糞薄不耐味。
その糞の薄くして、味わうに耐えざるを詈(ののし)れり。
半園のうんこが(下痢のために)薄味で、「こんなに不味い糞は無いぞ」と怒っていたのだった。
驚いてすぐに家を引き払ったあとで、地元のひとに訊いてみたところ、
厠基為廃阡。
厠の基は廃阡たり。
「阡」は田畑の間のあぜ道のうち南北の道をいう、というのが原義ですが、後世では「お墓に至る道」のこともいうので、ここはその意味です。
この便所は、お墓に行く道の上に作られている、ということであった。
ああ。
蛆或鬼化耳。
蛆はあるいは鬼の化するのみならんか。
もしかしたら、このウジムシたちは、死者たちが変化したものだったのかも知れない。
・・・・・・・・・・・・・・
清・朱海「妄妄録」巻一より。こんな話を聞かされて、みなさんおそろしいだろうね。おいらなんかあまりの恐ろしさにもう夜トイレに行けそうにないぜ。