意気揚々と空を行くような人たちを地べたで見上げるのもまた楽し。
今日もやってしまいました。飲み会爆睡。うとうとするという程度ではないのです。爆睡なんです。社会的地位のある方から見れば「失礼きわまりない」ことであろう。お怒りのことであろう。でも大丈夫です。おいらはもうみなさんの視界から消えていきますから・・・。
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「へへへ。どうもお目汚しでごぜえます」
・・・と、今日もぺこぺこして一日を過ごした。ツラいことである。
あるひという、「おまえはなぜそんなにへいこらして暮らしているのか。もっと自分に誇りを持てないのか」と。
「へへへ。そうはおっしゃいますが、こんな話もごぜえます・・・」
とおいらは以下の話をした。
―――春秋・斉の相・晏嬰がお出かけになった。
其御之妻、従門間而闚其夫。
その御の妻、門の間よりその夫を闚(うかが)う。
晏嬰の馬車の御者をつとめる者の妻は、門の隙間から夫の姿を覗き見した。
「覗き見するなんて、非常識なひとだな」
と思ってはいけません。覗き見せずに門から出てきて堂々と見ますと、自分がほかのひとにじろじろと見られることになります。これは古代の既婚女性としてはたいへんいけないことだったので、彼女は門の隙間から覗き見していたのです。すなわち「覗き見していた」という記述は、この女性が当時の常識を弁えた立派なひとであったことを示しているんですな。
さて、覗き見していますと、
其夫為相御、擁大蓋、策駟馬、意気揚揚、甚自得也。
その夫、相の御と為り、大蓋を擁し、駟馬に策(むちう)ち、意気揚揚として甚だ自得す。
その夫は、大臣の御者となって、(御者台に)大きな日傘をかざし、四頭立ての馬にむちを当てて、気分たかぶり、たいへん満足しているようである。
夫が帰ってきますと、その妻は
請去。
去らんことを請う。
「実家に帰らせていただきたい」
と言うのであった。
「どうしたのだ?」
と夫は問うた。
妻曰く、
晏子長不満六尺、身相斉国、名顕諸侯。妾観其出、志念深矣、常有以自下者。
晏子は長(たけ)は六尺に満たざるも、身は斉国に相にして名は諸侯に顕かなり。妾、その出づるを観るに、志念深く、常に以て自ら下る有る者なり。
「晏嬰さまは身長140センチにも満たない小男でいらっしゃるが、斉の国の大臣で、その名は各国の君主の間にも鳴り響いております。ところが、わらわがそのお出かけになる姿を見てみますと、考え深くしておられ、常に自分を卑下しているところがございました」
妻は続けた。
「しかるに―――
今子長八尺、乃為人僕御。然子之意自以爲足。
今、子は長八尺、すなわち人の僕御たり。然るに子の意みずから以て足れりと為す。
いま、あなたは身のたけ180センチもあるのに、ひとさまのしもべとなって御者をしている。なのに、あなたはその状況に自ら満足しておられるのよ」
「名高い大臣の晏嬰さまの御者だぞ。名誉なことだと思わないのか」
と夫は反論を少しはしたと思うのですが、言いなりのままだったかも知れない。コワかったかも知れませんから。
妾是以求去。
妾、ここを以て去らんことを求むなり。
「わらわは、だから実家に帰らせていただきたい、と言ったのよ」※
※と言いながら、すぐに実家に帰った様子はない。おそろしいオンナである。
「むむむ・・・」
其後夫自抑損。
その後、夫自ら抑損す。
その後、夫は態度を少し抑制するようになった。
晏嬰これを見て、
「最近元気が無さそうだが、どうかしたのか?」
と問うた。
御以実対。
御、実を以て対す。
御者は、「妻にこんなことを言われまして・・・」と本当のことを告げた。
晏嬰は黙って聞いていたが、しばらくすると、
「あの男には賢い妻と自らを抑制しようという意思がございます。必ずや役に立ちましょう」
とこの御者を大夫に推薦した。
―――というわけでございます。意気揚々とせずにそれを抑制しているだけで推薦されてしまうのです。へいこらしてバカにされるぐらいにしていないと、責任あるシゴトをさせられてしまうかも知れません。おいらはそんなことのないように、みなさんからバカにされるぐらいにしているのでしてね。へへへ、みなさんがんばってくださいね。
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このお話、「史記」晏嬰列伝より。「蒙求」にも「晏御揚揚」の題で収められております。なお「意気揚々」の語源でもある。
このエピソードは、ほんとは晏嬰が人材を探すのに熱心であったこと、この御者のように自分への批判を聞き入れて態度を変えることは晏嬰のような賢者の良しとするところであったこと、などを言いたいんでしょうけど、おいらたち歪んだ心の者からはこんなふうに利用されてしまうのですな。まあ、「民主主義」を歪めて利用しているやつらよりはマシかも?ですが。