もうすぐサル年!
電波の「圏外」になってしまったらしいので、更新してもアップできませんが、モクモクと更新します。今年はこれが最後の更新になるはず。
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明の時代、三茶和尚という僧侶がおった。
どこの生まれでどういう経歴の人か、誰も知らなかったが、お茶好きという評判で、萬暦年間(1573〜1620)に浙江・鉛山のあたりに住していた。
和尚毎経月不食、然一食斗米可立尽。
和尚、つねに月を経るも食らわず、しかして一食に斗米たちどころに尽すも可なり。
和尚は、一か月ぐらいはいつも何も食わないのであった(A)。しかし、食い物があると、一食で一斗ぐらい(当時の一斗は10リットル強)食べてしまうことができた(B)。
すごいことである。(B)は体調がものすごくよければもしかしたらできるかも知れないが、(A)はおいらには無理ですね。
さて、ある冬の日、和尚が野外で座禅を組んでいるうちに雪が降り始めた。
雪紛飛漸堆積和尚至頂。略不見其微動。
雪、紛飛してようやく和尚に堆積し頂に至り、ほぼその微動を見ず。
雪ははげしく降り、だんだんと和尚にも降り積もって、その頭頂までうずめてしまったが、和尚はほとんど動きもしないままであった。
雪に埋まってしまいました。
雪深数尺、三日始霽、人咸謂和尚凍死、尸且僵矣。
雪の深さ数尺、三日にして始めて霽れ、人みな和尚凍死し、尸まさに僵せんと謂えり。
雪の深さは一メートルぐらいになり、三日間降り続けてようやく止んだ。
ひとびとは晴れ渡った朝の雪を見ながら、「和尚さんは凍り付いて死んでしまったことであろう。死体はかちかちに固まっているのではないか」と言い合っていた。
何人かが鋤・鍬を手にして和尚の埋まっているあたりを掘ってみた。
しばらく掘ると、
撥雪有気如蒸、和尚従深雪中出、顔色更鮮。
雪を撥して気の蒸すが如き有りて、和尚深雪中より出づるに、顔色さらに鮮やかなり。
雪をはねのけて、蒸気のようなものがしゅうしゅうと噴き上がってきて、雪の中から和尚が出てきたのであった。その顔色、いつもにも益してあかあかと血色がいい。
和尚はぱっちりと目を開き、掘り出してくれたひとたちに向って、
「おはようさん」
と言った。
生きていたのでした。
ひとびと大いに驚き、これによって和尚の名は近隣に鳴り響いたのであった。
このことがあって数日後、和尚は、親しくしていた李某という読書人の家にやってきた。
李方与客囲炉。
李まさに客と炉を囲む。
李は、ちょうどほかの客たちと囲炉裏を囲んで談話していたところであった。
和尚至笑謂曰、君亦能従我方外遊乎。
和尚至り、笑いて謂いて曰く、「君またよく我が方外の遊に従うか」と。
和尚はやってきて、笑いながら李に向って言った。
「おまえさん、やはりわしと一緒にこの世の外への旅に出かける気はあるかのう?」
「それは―――もちろん・・・」
李が答えよう、とする前に、和尚はそれを遮るように、
若然請以此罏仮我。
もし然らばこの罏(ろ)を以て我に仮さんことを請う。
「ああそうか。そうならば、ちょっとこのヤカンをわしに貸してくれんか」
と言って、炉にかかっているヤカンを指さした。
李がうなずくと、
和尚随以両手撥火於地、挙熱罏自加首頂之。
和尚、随いて両手を以て火を地に撥ね、熱罏を挙げて自らこれを首頂に加う。
和尚はすぐに両手で囲炉裏の火を地面に向けてはねのけると、ちんちんに沸いたヤカンを持ち上げ、これを自分の頭の上に載せたのであった。
ぶしゅうううう。
と和尚の頭からも湯気が噴いた。
「うわー」
とみんな驚いた。
その間に、和尚はヤカンを頭に乗せたまま、
去不知所之。
去りて之くところを知らず。
外に出ていき、さて、それからどこに行ってしまったのかわからない。
雪の中で生きていた事件で有名になりすぎたのを嫌がって、いなくなってしまったのであろうか。結局、ヤカンも発見されることはなかった。
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清・鄭仲夔「冷賞」巻六より。
なんというすごい人でありましょうか! 岡○全○さんの次ぐらいに尊敬します!・・・と言ってみると、
「こんなことがほんとにありえたと思っているのか?」
「いい加減な前近代的なこと言ってるんじゃないわよ」
「本当に肝冷斎はダメだな、こんなウソみたいな話に感銘を受けているなんて。ああ情けない」
とみなさんの声が電波に乗って聴こえてくる(ような気がする)。(岡○全○さんは理解してくれると思われますが)
―――情けないのはこちらでございまちゅよ・・・。
と思いながらも、電波の圏外だからみなさんに申し上げても聞こえようがないわけだが、今年はこの言葉を申し上げて締めくくることといたしたい。すなわち、
真実でないことが誤りなのではない。誤りとは、別の真実がある可能性を忘れることだ。―――パスカル「パンセ」より。
でちゅー。